メインコンテンツに移動

疼痛の病態


    「痛み」の定義1)

    IASP(国際疼痛学会)では、「実際のまたは潜在的な組織損傷に関連する、またはそれに関連する不快な感覚的および感情的な経験」と定義されています。また、付記として、以下の6つが示されています。

    • 痛みは常に個人的な経験であり、生物学的、心理的、社会的要因によってさまざまな程度に影響を受けます。
    • 痛みと侵害受容は異なる現象です。痛みは感覚ニューロンの活動だけから推測することはできません。
    • 人は人生経験を通じて、痛みの概念を学びます。
    • 痛みとしての経験に関する個人の報告は尊重されるべきです。
    • 痛みは通常、適応的な役割を果たしますが、機能や社会的および心理的な幸福に悪影響を及ぼす可能性があります。
    • 言葉による説明は、痛みを表現するいくつかの行動の1つにすぎません。コミュニケーションができないからといって、人間や人間以外の動物が痛みを経験する可能性が否定されるわけではありません。

    疼痛の分類

    疼痛の分類基準2, 3)

    疼痛の分類基準には、さまざまな角度のものがあります。

    ①部位:体性痛、内臓痛(関連痛、放散痛)
    ②原因:侵害受容器を介する痛み(病的な意味を持たない痛みと炎症性痛)、介さない痛み(神経障害性痛)
    ③疼痛のパターン:持続痛、突出痛
    ④がん:有無による痛み(がん性疼痛、非がん性疼痛)

    原因による分類3-8)

    疼痛はその原因別に、以下の3つに分けられます。

    • 侵害受容性疼痛
      神経組織以外の生体組織に対する実質的ないしは潜在的な傷害によって、侵害受容器が興奮して起こる疼痛のことです。
      身体に対する危険への警告としての意義をもち、生体防御系として生理的に備えられています。
      外傷に伴う疼痛、術後痛、がん性疼痛などが含まれます。
    • 神経障害性疼痛
      神経組織の物理的損傷、機能的変化により生じる痛みで、帯状疱疹後神経痛や脊髄損傷による疼痛が含まれます。
      痛みへの恐怖心から、睡眠障害や活力低下、抑うつ、不安など、さまざまな合併症を伴うことがあります7)
    • 痛覚変調性疼痛
      組織損傷や神経障害の証拠がないにもかかわらず生じる痛みで、心理的要因が関連すると考えられています。

    慢性化した場合では、これらの要因が複雑に絡んだ混合性疼痛となっていることがあります。

    発生機序による疼痛の分類3-8)
    記事/インライン画像
    発生機序による疼痛の分類

    障害部位による分類5, 9-11)

    侵害受容性疼痛は、障害された部位により、体性痛と内臓痛に分けられます。体性痛は、局在がはっきりとした鋭い痛みなのに対して、内臓痛は局在がはっきりとしない鈍い痛みであることが特徴です。

    体性痛と内臓痛
    分類 侵害受容性疼痛
    体性痛 内臓痛
    障害部位 皮膚, 骨, 関節, 筋肉, 結合組織などの体性組織 食道, 小腸, 大腸などの管腔臓器
    肝臓, 腎臓などの被膜をもつ固形臓器
    侵害刺激 切る, 刺す, 叩くなどの機械的刺激 管腔臓器の内圧上昇
    臓器被膜の急激な伸展
    臓器局所および周囲の炎症
    骨転移に伴う骨破壊
    体性組織の創傷
    筋膜や筋骨格の炎症
    がん浸潤による食道, 大腸などの通過障害
    肝臓の腫瘍破裂など急激な被膜伸展
    痛みの特徴 うずくような, 鋭い, 拍動するような痛み
    局在が明瞭な持続痛が体動に伴って悪化する
    深く絞られるような, 押されるような痛み
    局在が不明瞭
    日本緩和医療学会 編:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版. 金原出版, p23, 2020 より改変

    侵害受容性疼痛のメカニズムとリドカインの作用9, 12)

    侵害受容性疼痛は、熱刺激、化学刺激、機械刺激などのさまざまな刺激によって侵害受容器が興奮し、その興奮が末梢神経を経て脊髄から大脳へと伝達されることで生じます。
    また、こうした神経の興奮には、神経細胞上のNa+チャネルの発現・蓄積が関与すると考えられています。リドカインは、Na+チャネルをブロックし、Na+の細胞外からの流入を抑制することで神経細胞の興奮を抑制し、鎮痛作用を示します。

    侵害受容性疼痛の発生機序
    記事/インライン画像
    侵害受容性疼痛の発生機序
    〔田上恵太, 中川貴之:がん疼痛, 専門家をめざす人のための緩和医療学(日本緩和医療学会 編)改訂第2版. 南江堂, p66, 2019 より許諾を得て改変し転載〕
    1. IASP:IASP Announces Revised Definition of Pain
      https://www.iasp-pain.org/publications/iasp-news/iasp-announces-revised-definition-of-pain/?ItemNumber=10475(2022年8月閲覧)
    2. 日本緩和医療学会 編:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版. 金原出版, pp23, 26, 165, 2020
    3. 小川節郎:日大医誌. 69, 154-158, 2010
    4. 厚生労働行政推進調査事業費補助金(慢性の痛み政策研究事業)「慢性疼痛診療システムの均てん化と痛みセンター診療データベースの活用による医療向上を目指す研究」研究班 監修, 慢性疼痛診療ガイドライン作成ワーキンググループ 編集:慢性疼痛診療ガイドライン. 真興交易(株) 医書出版部, pp16, 18, 2021
    5. 日本ペインクリニック学会 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂版作成ワーキンググループ 編:神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版. 真興交易(株) 医書出版部, p24, 2016
    6. 川口善治:現代医学. 69, 19-24, 2022
    7. 松本美富士:現代医学. 69, 44-49, 2022
    8. 日本痛み関連学会連合用語委員会:Nociplastic painの日本語訳に関する用語委員会提案【要約版】. 2021年9月12日
    9. 日本緩和医療学会 編:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版. 金原出版, p23, 2020
    10. 住谷昌彦:日内会誌. 108, 2070-2076, 2019
    11. 日本ペインクリニック学会 痛みの機序と分類
      https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_bunrui.html (2022年8月閲覧)
    12. 日本ペインクリニック学会 治療指針検討委員会 編:ペインクリニック治療指針 改訂第6版. 真興交易(株) 医書出版部, p126, 2019

    お問い合わせ

    お問い合わせの内容ごとに
    専用の窓口を設けております。

    各種お問い合わせ

    Dermado デルマド 皮膚科学領域のお役立ち会員サイト

    医学賞 マルホ研究賞 | Master of Dermatology(Maruho)

    マルホLink

    Web会員サービス

    ページトップへ