マーデュオックスの尋常性乾癬患者を対象とした第Ⅲ相臨床試験
試験概要
概要
- 目的
- 尋常性乾癬患者を対象に、MCT(マキサカルシトール)軟膏25μg/g及びBBP(ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル)軟膏0.5mg/gを対照としてマーデュオックス軟膏の有効性及び安全性をランダム化二重盲検並行群間比較試験により検討する。
- 対象
- 尋常性乾癬患者
- 選択基準
- 観察開始日及び治療開始日に以下の条件を満たす患者(16歳以上)
- 1)体幹、上肢及び下肢のBSA(Body Surface Area)の合計が20%未満
- 2)以下のPSI評価皮疹を有する
- ①皮疹面積が10cm2以上である
- ②体幹、上肢、下肢(手首及び足首より先端を除く領域)に存在する
- ③PSI合計スコアが15以上であり、かつ各皮膚所見(紅斑、浸潤/肥厚、鱗屑)のPSIスコアがいずれも4以上である
- 3)mPASIが4.5以上
- 症例数
- 有効性解析集団(FAS)及び安全性解析集団:
マーデュオックス軟膏群166例、MCT軟膏群156例、BBP軟膏群153例 - 投与方法
- マーデュオックス軟膏群及びBBP軟膏群はプラセボ、実薬を各1日1回(朝プラセボ、夜実薬)、MCT軟膏群は1日2回(朝、夜ともに実薬)をそれぞれ4週間適量単純塗布した。全投与群で治験薬の使用量は10g/日以下とした。
(MCT軟膏及びBBP軟膏の濃度は既存薬と同一で、基剤はマーデュオックス軟膏と同一とした) - 評価項目
-
有効性
主要評価項目:4週後のPSI(Psoriasis Severity Index)合計スコア
副次評価項目:4週後のmPASI(modified Psoriasis Area and Severity Index)減少率
その他の主な評価項目- 1)各評価日のPSI合計スコア、mPASI減少率
- 2)各評価日の医師の総合評価(IGA:Investigator's Global assessment)が「なし」又は
「軽微」と判断された患者の割合 - 3)4週後のDLQI(Dermatology Life Quality Index)合計スコア
- 4)各評価日の各皮膚所見のPSIスコア
安全性
有害事象(自覚症状及び他覚所見、臨床検査値異常変動)、血漿中薬物濃度 - 解析計画
-
主要評価項目
4週後のPSI合計スコアは、投与群別の最小二乗平均、標準誤差を算出した。更に、マーデュオックス軟膏群とMCT軟膏群、マーデュオックス軟膏群とBBP軟膏群との差、標準誤差及びP値を算出した。各評価時期のPSI合計スコアを応答変数とし、評価時期、群及び評価時期×群の交互作用を固定効果とした解析を行った(反復測定分散分析)。副次評価項目
4週後のmPASI減少率は、投与群別の最小二乗平均、標準誤差を算出した。更に、マーデュオックス軟膏群とMCT軟膏群、マーデュオックス軟膏群とBBP軟膏群との差、標準誤差及びP値を算出した。各評価時期のmPASI減少率を応答変数とし、評価時期、群及び評価時期×群の交互作用を固定効果、治療開始日のmPASIを共変量とした混合効果モデルで解析した(反復測定分散分析)。サブグループ解析
評価部位別PSI合計スコアの解析は試験計画に事前規定されていた。
試験デザイン
社内資料:尋常性乾癬患者を対象とした第Ⅲ相臨床試験(承認時評価資料)
中川 秀己ら:西日本皮膚科, 77(4), 390(2015)[利益相反]本試験に関する費用は、マルホ(株)が負担した。
有効性
- PSI合計スコア(FAS)〔主要評価項目〕
-
主要評価項目である4週後のPSI合計スコア(最小二乗平均)は、マーデュオックス軟膏群4.5、MCT軟膏群7.9及びBBP軟膏群7.4であった。マーデュオックス軟膏群とMCT軟膏群、マーデュオックス軟膏群とBBP軟膏群との群間差はそれぞれ−3.4、−2.9であり、有意な差が認められた(p<0.01、反復測定分散分析)。
判定基準:PSI(Psoriasis Severity Index)スコア
PSIスコアは、紅斑、浸潤/肥厚、鱗屑の重症度をスコア化した指標であり、尋常性乾癬の特定の皮疹に対する治療効果を評価するために有用な指標である。マーデュオックス軟膏は薬理作用が異なる2成分の相加効果が期待されるため、有効性を検証するには、重症度が高い皮疹部位でのマーデュオックス軟膏の有効性を各単剤と比較することが適切と考え、PSIスコアを指標とした。
PSI合計スコアの式
PSI合計スコア=PSI紅斑スコア+PSI浸潤/肥厚スコア+PSI鱗屑スコア
スコア 紅斑 浸潤/肥厚 鱗屑 0点 なし なし なし 1点 : : : 2点 ピンク色 軽度の隆起 軽度の鱗屑 3点 : : : 4点 赤色 中等度の隆起 中等度の鱗屑 5点 : : : 6点 強い赤色 高度の隆起 高度の鱗屑 7点 : : : 8点 極めて強い赤色 極めて高度な隆起 極めて高度な鱗屑
- 皮膚所見別PSIスコア(FAS)
-
紅斑、浸潤/肥厚、鱗屑のいずれの症状でも4週後のマーデュオックス軟膏群のPSIスコア(最小二乗平均)は、MCT軟膏群及びBBP軟膏群と比較して有意な差が認められた(p<0.01、反復測定分散分析)。
- 評価部位別PSI合計スコア(FAS)〔サブグループ解析〕
-
体幹、上肢、下肢のいずれの部位でも4週後のマーデュオックス軟膏群のPSI合計スコア(最小二乗平均)は、MCT軟膏群及びBBP軟膏群と比較して有意な差が認められた(p<0.05、反復測定分散分析)。
- mPASI減少率(FAS)〔副次評価項目〕
-
副次評価項目である4週後のmPASI減少率(最小二乗平均)は、マーデュオックス軟膏群63.7%、MCT軟膏群44.1%、BBP軟膏群47.9%であった。マーデュオックス軟膏群とMCT軟膏群、マーデュオックス軟膏群とBBP軟膏群との群間差はそれぞれ19.6、15.8であり、有意な差が認められた(p<0.01、反復測定分散分析)。
判定基準:mPASI(modified Psoriasis Area and Severity Index)
mPASIは尋常性乾癬の病変部の皮膚所見の重症度と病変範囲(皮疹面積)から頭頸部を除いた全身の尋常性乾癬の重症度を数値化した評価指標である。尋常性乾癬の多くの臨床試験で使用されている評価手法であり、皮膚所見の程度と病変範囲(皮疹面積)を含めて全身の尋常性乾癬の重症度を評価するため設定した。
mPASI算出式
mPASI=A+B+C
体幹:(紅斑スコア+浸潤/肥厚スコア+鱗屑スコア)×病変範囲スコア×0.3=A
上肢:(紅斑スコア+浸潤/肥厚スコア+鱗屑スコア)×病変範囲スコア×0.2=B
下肢:(紅斑スコア+浸潤/肥厚スコア+鱗屑スコア)×病変範囲スコア×0.4=CmPASI減少率
スコア 各皮膚所見
(紅斑、浸潤/肥厚、鱗屑)
重症度0点 なし 1点 軽度 2点 中等度 3点 高度 4点 極めて高度 スコア 病変範囲 0点 0% 1点 0% < 〜< 10% 2点 10% ≦ 〜 < 30% 3点 30% ≦ 〜 < 50% 4点 50% ≦ 〜 < 70% 5点 70% ≦ 〜 < 90% 6点 90% ≦ 〜 ≦ 100%
- IGA Treatment successの割合(FAS)
-
4週後に「なし」又は「軽微」(Treatment success)と判断された割合は、マーデュオックス軟膏群、MCT軟膏群、BBP軟膏群でそれぞれ50.0%、26.9%、30.1%であった。MCT軟膏群及びBBP軟膏群に対するマーデュオックス軟膏群のオッズ比(95%信頼区間)は、それぞれ2.71(1.70〜4.33)、2.33(1.47〜3.69)であった(p<0.01、ロジスティック回帰、WOCF)。
判定基準:IGA(Investigator's Global assessment)
IGAは、尋常性乾癬の皮膚所見(紅斑、浸潤/肥厚、鱗屑)の特徴から、全病巣の重症度を評価する指標であり、欧州のガイドライン1)でPASIとともに尋常性乾癬の評価に推奨されている指標である。尋常性乾癬の多くの臨床試験で用いられている。IGAが「なし」又は「軽微」と判定された患者の割合をTreatment successとした。
重症度 定義 なし 紅斑、浸潤/肥厚、鱗屑はなし。 軽微 全体の臨床像は薄いピンクがかった紅斑を伴う状態である。 軽度 全体の臨床像は薄赤色の紅斑、境界不明瞭なわずかな浸潤/肥厚、細かい鱗屑が主体である。 中等度 全体の臨床像は赤色の紅斑、境界明瞭な浸潤/肥厚、粗い鱗屑が主体である。 高度 全体の臨床像は暗赤色の紅斑、境界明瞭で顕著に隆起した浸潤/肥厚、粗く厚い鱗屑が主体である。 - EMEA, Guideline on clinical investigation of medicinal products indicated for the treatment of psoriasis.1-18.(2004)
- DLQI合計スコア(FAS)(参考情報)
-
4週後のDLQI合計スコア(最小二乗平均)は、マーデュオックス軟膏群、MCT軟膏群、BBP軟膏群でそれぞれ1.4、2.3、2.3であった。
参考:DLQI(Dermatology Life Quality Index)
DLQIは皮膚疾患のためのQOL尺度2)であり、症状・感情、日常活動、レジャー、仕事・学校、人間関係及び治療の6つの下位尺度から構成されている。様々な皮膚疾患のQOL評価として用いられている。
2) Finlay, AY., et al.: Clin. Exp. Dermatol., 19(3), 210(1994)
8. 重要な基本的注意(一部抜粋)
8.2本剤は活性型ビタミンD3誘導体を含有しており、血中カルシウム値が上昇する可能性がある。また、マキサカルシトール外用製剤において高カルシウム血症に伴い、急性腎障害の報告があるため、本剤の使用に際しては、血中カルシウム値及び腎機能(血中クレアチニン、BUN等)の検査を定期的(開始2~4週後に1回、その後は適宜)に行うこと。なお、正常域を超えた場合には減量又は使用を中止すること。
8.3皮疹が広範囲にある場合や、皮疹重症度が高く、皮膚のバリア機能が低下して本剤の経皮吸収が増加する可能性のある患者では、高カルシウム血症が発現しやすく、急性腎障害に至る可能性もあるため、本剤を少量から使用開始し、観察を十分に行い、血中カルシウム値及び腎機能の検査を定期的に行うこと。
社内資料:尋常性乾癬患者を対象とした第Ⅲ相臨床試験(承認時評価資料)
中川 秀己ら:西日本皮膚科, 77(4), 390(2015)[利益相反]本試験に関する費用は、マルホ(株)が負担した。
安全性
本試験による副作用
副作用は、マーデュオックス軟膏群で166例中9例(5.4%)、MCT軟膏群で156例中8例(5.1%)、BBP軟膏群で153例中8例(5.2%)に認められた。主な副作用は血中コルチゾール減少(マーデュオックス軟膏群4例(2.4%)、MCT軟膏群2例(1.3%)、BBP軟膏群2例(1.3%))などが認められた。投与中止に至った副作用は、MCT軟膏群で血中カルシウム増加、接触性皮膚炎が各1例、BBP軟膏群で末梢性浮腫が1例認められた。また、本試験では死亡例を含む重篤な副作用は認められなかった。
マーデュオックス 軟膏群 |
MCT軟膏群 | BBP軟膏群 | |
---|---|---|---|
安全性解析対象例数 | 166 | 156 | 153 |
副作用発現例数(%) | 9(5.4) | 8(5.1) | 8(5.2) |
副作用の種類 | 副作用発現例数(%) | ||
---|---|---|---|
マーデュオックス 軟膏群 |
MCT軟膏群 | BBP軟膏群 | |
一般・全身障害および投与部位の状態 | 0(0.0) | 1(0.6) | 1(0.7) |
適用部位そう痒感 | 0(0.0) | 1(0.6) | 0(0.0) |
末梢性浮腫 | 0(0.0) | 0(0.0) | 1(0.7) |
肝胆道系障害 | 1(0.6) | 0(0.0) | 1(0.7) |
肝機能異常 | 1(0.6) | 0(0.0) | 1(0.7) |
感染症および寄生虫症 | 1(0.6) | 1(0.6) | 1(0.7) |
毛包炎 | 0(0.0) | 1(0.6) | 0(0.0) |
体部白癬 | 0(0.0) | 0(0.0) | 1(0.7) |
適用部位毛包炎 | 1(0.6) | 0(0.0) | 0(0.0) |
臨床検査 | 7(4.2) | 5(3.2) | 4(2.6) |
血中コルチゾール減少 | 4(2.4) | 2(1.3) | 2(1.3) |
血中カルシウム増加 | 1(0.6) | 1(0.6) | 0(0.0) |
血中リン減少 | 0(0.0) | 0(0.0) | 1(0.7) |
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加 | 0(0.0) | 1(0.6) | 0(0.0) |
血中ビリルビン増加 | 0(0.0) | 0(0.0) | 1(0.7) |
血中クレアチニン増加 | 1(0.6) | 0(0.0) | 0(0.0) |
白血球数減少 | 1(0.6) | 0(0.0) | 0(0.0) |
血中リン増加 | 0(0.0) | 1(0.6) | 0(0.0) |
皮膚および皮下組織障害 | 0(0.0) | 1(0.6) | 1(0.7) |
接触性皮膚炎 | 0(0.0) | 1(0.6) | 1(0.7) |
MedDRA/J Ver.16.0
社内資料:尋常性乾癬患者を対象とした第Ⅲ相臨床試験(承認時評価資料)
中川 秀己ら:西日本皮膚科, 77(4), 390(2015)[利益相反]本試験に関する費用は、マルホ(株)が負担した。
*マーデュオックス軟膏と基剤を同一にした軟膏