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皮脂欠乏症の主な原因:EGFR阻害薬


    監修:
    • 東京女子医科大学 名誉教授 川島 眞 先生

    EGFR阻害薬の皮膚障害

    近年、がん治療には様々な分子標的治療薬が使用されていますが、それとともに皮膚障害が生じる報告があります。出現頻度の高い皮膚障害には、ざ瘡様皮疹、脂漏性皮膚炎、乾燥皮膚、そう痒症、爪囲炎があります()。分子標的治療薬に起因する皮膚障害は、薬剤の効果と皮膚障害の程度との間に正の相関を示す特徴を有し、薬剤の副反応としてではなく、薬剤の主反応の結果として発現することが推測されています。しかし、重度な皮膚障害が発現した場合には、分子標的治療薬の中断・中止を考慮しなければいけない現状があり、分子標的治療薬に起因する皮膚障害に関して、治療の継続を念頭においた皮膚症状のコントロールが求められ、チーム医療として対応していくことが重要と考えられます。

    川島 眞 ら:臨床医薬, 30(11), 975-981, 2014

    図:EGFR阻害薬による皮膚障害発現時期
    記事/インライン画像
    EGFR阻害薬による皮膚障害発現時期

    中原 剛士:西日皮膚, 77(3), 203-209, 2015 より引用

    乾燥が起きる機序

    上皮成長因子受容体(EGFR)は正常皮膚において表皮基底層、外毛根鞘、エクリン汗腺、脂腺などに発現しており、皮膚の増殖や分化に非常に重要な役割を果たしています。そのため、その作用が障害されると高率に皮膚障害を生じると考えられます。乾燥の原因としてはEGFR阻害薬が皮膚に直接作用することで、表皮の早期分化を誘導し、角層の形成不全や皮膚バリア機能の低下を引き起こすことによると考えられています。

    中原 剛士:西日皮膚, 77(3), 203-209, 2015

    特徴的な症状

    乾燥皮膚は多くの場合、ざ瘡様皮疹にやや遅れて出現します。鱗屑が付着し、全身が乾燥皮膚の状態になり、痒みを伴います。指趾の先端や手掌・足蹠では乾燥した皮膚に亀裂を伴うこともあり、疼痛が著明になることが多いです。

    中原 剛士:西日皮膚, 77(3), 203-209, 2015

    EGFR阻害薬による乾燥皮膚
    記事/インライン画像
    EGFR阻害薬による乾燥皮膚

    写真提供:東京女子医科大学 名誉教授 川島 眞 先生

    好発部位

    乾燥皮膚は全身でみられ、鱗屑が付着しています。また、痒みを伴います。指趾の先端や手掌・足蹠では乾燥した皮膚に亀裂を伴うこともあり、疼痛が著明になることが多いです。

    中原 剛士:西日皮膚, 77(3), 203-209, 2015

    記事/インライン画像
    好発部位

    中原 剛士:西日皮膚, 77(3), 203-209, 2015 より作図

    EGFR阻害薬による皮膚障害に対する治療

    乾燥皮膚に対しては保湿剤の塗布を行い、基本的なスキンケアとしての洗浄、保護など、日常生活の見直しを指導します。保湿剤の選択に関しては、ヘパリン類似物質含有製剤の有用性を示す報告などがあります
    皮膚の角化がある場合には、保湿剤に加えてサリチル酸ワセリン、尿素軟膏などの角質軟化作用を有する薬剤の塗布を行います。手や踵の角化への対応は表のように行います。

    • 川島 眞 ら:臨床医薬, 30(11), 975-981, 2014
    • 中原 剛士 ら:西日皮膚, 76(3), 242-247, 2014

    表:乾燥皮膚・角化への対応

    乾燥皮膚
    • 保湿剤の塗布。ヘパリン類似物質含有製剤などの有用性を示す報告がある
    • 基本的なスキンケアとして、洗浄、保護
    手指の角化
    • 軽症では、保湿剤塗布、サリチル酸ワセリン塗布
    • 重症では、ストロンゲストのステロイド外用薬塗布またはODT
    踵の角化
    • 軽症では、1)ヘパリン類似物質含有製剤塗布、サリチル酸ワセリン塗布
    • 中等症では、1)に加えて、亀裂部に対し、2)ストロンゲストのステロイド外用薬塗布
    • 重症では、1)、2)に加えて、深い亀裂部に対し、被覆治療剤を併用

    *ODT:密封療法

    川島 眞 ら:臨床医薬, 30(11), 975-981, 2014 より一部改変

    EGFR阻害薬における皮膚障害(皮脂欠乏症)に関する皮膚生理学的変化と保湿剤の影響

    近年、手術不能な非小細胞肺がんに対する上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬の有用性が示される一方、治療による皮膚障害が高頻度で発現し、患者のQOL低下あるいはEGFR阻害薬の治療継続に支障を来すこともわかっています。しかし皮膚障害に対する治療がEGFR阻害薬投与後の生理学的変化に効果があるかどうかを評価した報告はほとんどありませんでした。
    そこでEGFR阻害薬投与後の角層水分量と乾燥スコアの変化を経時的に測定し、皮膚障害の一つである乾燥皮膚の程度と保湿剤の有用性を評価するために、ヒルドイドソフト軟膏0.3%あるいはヒルドイドローション0.3%を用いた無作為化割付試験が実施されました。

    試験概要

    目的
    EGFR阻害薬投与後の角層水分量と乾燥スコアの変化を経時的に測定し、乾燥皮膚(皮脂欠乏症)の程度と保湿剤の有用性を評価する。
    対象

    非小細胞肺がんの診断が確定しており、ゲフィチニブあるいはエルロチニブの投与対象となる20歳以上の患者8例

    記事/インライン画像
    ゲフィチニブあるいはエルロチニブの投与対象
    方法
    対象を無作為に保湿剤塗布群と無塗布群に割り付け後、EGFR阻害薬の投与を開始し、経時的に角層水分量の測定および医師による乾燥スコアの評価を行った。保湿剤塗布群はEGFR阻害薬投与2週目より対象部位にヒルドイドソフト軟膏0.3%あるいはヒルドイドローション0.3%を1日1回以上、適量塗布した。
    評価部位
    顔面(額、左右頬)、胸部(正中線付近)、背部(肩甲骨間)、左右上腕外側の計7部位とした。
    有効性および
    安全性解析対象
    保湿剤塗布群:4例、無塗布群:4例
    評価項目
    [理学的評価] 角層水分量(乾燥症状)
    角層水分量は、corneometerにて静電容量(capacitance)を測定した。1測定部位につき異なる場所で5回測定し、その平均値を採用した。
    [医師評価] 乾燥スコア(皮膚症状)
    皮膚科医が各観察日に対象部位の乾燥を下記の乾燥スコアにしたがって評価した。
    乾燥スコア 対象部位の乾燥
    0 なし(皮膚乾燥は認められない)
    1 軽微(皮膚がごくわずかに乾燥し、細かい鱗屑が付着している)
    2 軽度(皮膚がわずかに乾燥し、鱗屑が付着している)
    3 中等度(皮膚が明らかに乾燥し、やや大型の鱗屑が付着している)
    4 高度(皮膚が高度に乾燥し、大型の鱗屑が付着している)
    患者背景
    項目 保湿剤塗布群 無塗布群
    安全性・有効性 解析対象 4例 4例
    性別 1例 2例
    3例 2例
    年齢(歳) Mean ± SD 72.5 ± 11.3 66.0 ± 4.8
    解析計画
    1. EGFR阻害薬投与後の角層水分量・乾燥スコアの経時的変化
      EGFR阻害薬投与前の角層水分量に対する投与2週目までの角層水分量について対応のあるt検定を行った。
      EGFR阻害薬投与前の乾燥スコアに対する投与2週目までの乾燥スコアに対してはWilcoxonの符号付き順位検定を行った。
    2. EGFR阻害薬投与後の角層水分量・乾燥スコアの変化に対する保湿剤の効果
      群内比較として、各群のEGFR阻害薬投与前の角層水分量に対する投与6週目までの角層水分量(実測値)について対応のあるt検定を行った。
      各群のEGFR阻害薬投与前の乾燥スコアに対する投与6週目の乾燥スコアに対してWilcoxonの符号付き順位検定を行った。
      群間比較として、投与6週目までの各時点の角層水分量(実測値)について対応のないt検定を行った。

    結果

    EGFR阻害薬投与後の角層水分量・乾燥スコアの経時的変化

    角層水分量は投与直後から減少し始め、投与10日目の時点で有意に減少し(p<0.05, Paired t-test)、その減少は投与2週目まで続いた(図1a)。また、その減少率は投与開始前を100%とすると、投与2週目で93.2%であった。乾燥スコアは経時的に投与2週目まで増加し、投与2週目では有意に増加した(p<0.05, Wilcoxonの符号付き順位検定)(図1b)。これらの結果より、EGFR阻害薬投与直後から角層水分量が低下し、経時的に皮膚症状が悪化することが示された。

    図1a:角層水分量の推移
    記事/インライン画像
    角層水分量の推移
    図1b:乾燥スコアの推移
    記事/インライン画像
    乾燥スコアの推移

    EGFR阻害薬投与後の角層水分量・乾燥スコアの変化に対する保湿剤の影響

    EGFR阻害薬投与6週目までの角層水分量は、無塗布群では投与2週目以降も減少し続けたが、保湿剤塗布群では無塗布群と比較して減少が抑えられ、投与6週目の時点で有意差が認められた(p<0.05, Unpaired t-test)(図2a)。
    乾燥スコアは両群ともに、投与前と比較して投与6週後には増加する傾向であったが、無塗布群の方が増加の程度がより大きかった(図2b)。
    保湿剤の塗布により、EGFR阻害薬による角層水分量の低下が抑制され、皮膚乾燥が軽減する傾向が示された。

    図2a:角層水分量の平均値
    記事/インライン画像
    角層水分量の平均値
    図2b:乾燥スコアの平均値
    記事/インライン画像
    乾燥スコアの平均値

    副作用

    局所性副作用および全身性副作用は認められなかった。

    まとめ

    乾燥皮膚は皮膚バリア機能障害、さらには皮膚の炎症を引き起こすことが知られています。
    EGFR阻害薬投与直後から角層水分量は低下し、乾燥スコアも増加しましたが、保湿剤を塗布することで角層水分量の低下は改善し、乾燥スコアの増加も軽減しました。
    保湿剤塗布は皮膚バリア機能の修復や皮膚障害の症状改善にもつながる可能性があるため、EGFR阻害薬投与によって生じる乾燥皮膚を保湿剤により改善することは有用であると考えられました。

    ヒルドイドソフト軟膏0.3%の副作用:総投与症例119例中、本剤による副作用は認められなかった。(承認時)

    ヒルドイドクリーム0.3%の副作用:総投与症例2471例中23例(0.93%)に認められ、主なものは皮膚炎9件(0.36%)、そう痒8件(0.32%)、発赤5件(0.20%)、発疹4件(0.16%)、潮紅3件(0.12%)等であった。(効能追加時)

    ヒルドイドローション0.3%の副作用:総投与症例121例中、本剤による副作用は認められなかった。(承認時)

    ヒルドイドフォーム0.3%の副作用:総投与症例60例中、1例(1.7%)2件に認められ、そう痒症及び紅斑が各1件(1.7%)であった。(承認時)

    中原 剛士 ら:西日皮膚, 76(3), 242-247, 2014 より一部改変

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