褥瘡一問一答集 栄養管理関連 京都大学医学部附属病院 疾患栄養治療部 幣 憲一郎先生

Q01

褥瘡の発症予防を含めて、栄養障害のある患者をどのように抽出し、
栄養アセスメントを行えば良いのですか?

A

 褥瘡発生の危険性が高い状態は?(栄養障害のある患者は?)と考えますと、一般的な表現ですが、「るい痩(標準体重よりも20%以上痩せている状態)」で「貧血気味」、「身体活動量が低下している(ベッド上安静)」などの状態にある患者に頻発していると考えられます。特に「るい痩(低栄養状態)」は褥瘡発生の危険因子として栄養管理上の重要な管理ポイントにあげられていますので、最も注意深く確認が必要です。
 「るい痩(低栄養状態)」にある患者を観察しますと、種々の基礎疾患に影響された「摂食不良」という問題を抱えています。特に、その要因には、単なる①食欲の低下(精神・神経学的異常、全身倦怠感や疼痛、薬剤の副作用によるもの)のみならず、②消化管機能の低下(腸閉塞や急性腸炎によるもの、下痢・便秘を含む)、③摂食・嚥下機能の低下(脳血管障害などによるもの)、④各種検査などでの頻回の絶食、薬剤の多量服用による満腹感、⑤治療に関連した必要以上の食事制限など種々な摂食不良に影響する要因があり、それぞれの分類や有無をチェックし、栄養管理上の問題点を把握することで、適切な対応が行えるようになります(図1)。一方、「身体活動量が低下している(ベッド上安静、寝たきり)」という問題に対しては「除圧・体圧管理」を併用した対応が必須であり、リハビリなど含めた総合的な視点での対応が求められます。

図1 褥瘡の発生要因図1 褥瘡の発生要因

 例えば、「神経性食思不振症患者」における「摂食不良」と言えば、低栄養リスクとして想像し易いと思いますが、「糖尿病患者における栄養障害」といった例も存在し、適切な食事摂取量の把握や治療上の問題点を把握することが重要になります。すなわち、糖尿病と言えば「過食」という問題点のみが注目され、「摂食不良」という問題は論外と考えられそうですが、高齢者糖尿病患者の食事摂取パターンなどを確認しますと、血糖値の上昇を気にするあまり、指示エネルギー量の範囲を十分に摂取出来ていない患者を多く見かけます。また、摂食不良・摂取不足に伴う「低血糖」が頻発しますと、それらによる転倒や骨折のリスクが増大することから「寝たきり状態」になるという患者が増えるばかりではなく、低血糖は認知機能の低下にも関連しているとされ、褥瘡発生後の創傷の治癒遅延といった悪影響にまで波及します。このように栄養障害はどのような疾患の患者にもリスクがあるため、早期から褥瘡予防の視点でアプローチを行う事が重要とされています。

 さて、具体的な臨床現場で用いられている栄養障害のある患者を抽出するためのスクリーニング・アセスメント指標としては、①生化学検査値、②身体計測値(体重減少率、骨格筋量の減少など)、③各種栄養評価ツールなどが一般的に活用されています。図1のように、栄養障害の影響は「基礎疾患の治癒遅延」のみならず、「感染症の合併頻度上昇」、「手術創治癒の遅れ、褥瘡の発生」、「手術死亡率の上昇」など、大きな問題となります。

 では、それぞれ栄養障害のある患者を抽出するためのスクリーニング・アセスメント指標のポイントをご説明しましょう。

 ①生化学検査値については、ルーチン検査で測定されている「総蛋白、アルブミン、プレアルブミン、ヘモグロビン」など栄養指標とされる生化学検査項目が活用し易く、血清アルブミン値が3.5g/dL以下では、褥瘡発生のリスクが高いとの報告もあり、この基準により栄養障害のある患者を抽出することが有用と考えられています。しかし、血清アルブミン値は、炎症や脱水などさまざまな要因で変化し、時として栄養指標とはなりにくいという事も理解して活用することが求められています。また、貧血状態では、傷を修復するための各種栄養素や酸素を、患部に十分に提供することが出来ないため、男性で13g/dL未満、女性では12g/dL未満の患者は栄養障害や褥瘡発生のリスクがあるとして注意して対応することが求められます。

 ②体重変化(体重減少率)については、EAUAPの栄養ガイドラインでは、「望まない体重減少(undesirable weight loss)」(過去6ヶ月間に通常時体重の10%、または過去1ヶ月間に5%を上回る減少)は、低栄養状態を示唆するものであり、定期的な体重測定を行い、栄養評価を繰り返すことが推奨されています。同様に前述したような各種理由で「食事喫食率」が低下しているということは、栄養障害のある患者を抽出する際の重要な指標となります。

※「食事喫食率」=100×(提供された食事量-残菜量)/提供された食事量
入院中に提供される食事であれば、主食の摂取量、主菜・副菜の摂取量としてカルテ(看護記録など)に記載されている情報を活用して「食事喫食率」の変化を確認頂ければと思いますが、褥瘡患者ではどの病期においても、たんぱく質の必要量を確保したいので、主食と主菜の摂取量を区別して考え、主菜(たんぱく質食品)の残食量を中心に食事喫食率の確認を行うことが必要となります。 簡単に考えると、提供した食事を何割摂取出来たかを確認し、元の食事エネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物等を割合計算すると投与栄養量が算出できることになります。特に、提供された食事の50%を下回るような喫食率しか経口的に摂取できていない場合は、末梢静脈栄養法などを含めて他の栄養療法を併用する。もしくは、栄養投与方法の変更が必要となります。また、外来患者においては、食事喫食率の確認に「食物摂取頻度調査法」「24時間思い出し法」「食事記録法」などを活用することも多いので、覚えておきましょう。

 ③臨床現場で汎用されている主観的包括的栄養評価(SGA;subjective global assessment)は、低栄養患者において比較的精度の高いスクリーニングツールとして広く使用されていますが、「褥瘡」に限定したエビデンスレベルは決して高くはないということも理解しておく必要があります。そこで、栄養状態の評価ツールに関する横断研究では、簡易栄養状態評価表(MNA®(Mini Nutritional Assessment®))(表1)が褥瘡発生のリスクと最も強い相関があったとの報告があるのでこちらを是非活用頂きたいと考えます。

表1 簡易栄養状態評価表(MNA®(Mini Nutritional Assessment®)) 表1 簡易栄養状態評価表(MNA;mini nutritional assessment)

c Nestle, 1994, Revision 2009. N67200 12/99 10M
Vellas B, Villars H, Abellan G, et al. Overview of the MNA® - Its History and Challenges. J Nutr Health Aging 2006;10:456-465.
Rubenstein LZ, Harker JO, Salva A, Guigoz Y, Vellas B. Screening for Undernutrition in Geriatric Practice: Developing the Short-Form Mini Nutritional Assessment (MNA-SF). J Geront 2001;56A: M366-377.
Guigoz Y. The Mini-Nutritional Assessment (MNA®) Review of the Literature - What does it tell us? J Nutr Health Aging 2006; 10:466-487.
Kaiser MJ, Bauer JM, Ramsch C, et al. Validation of the Mini Nutritional Assessment Short-Form (MNA®-SF): A practical tool for identification of nutritional status. J Nutr Health Aging 2009; 13:782-788.

 以上、簡単ではありますが3種類の指標を説明しました。それぞれ単独で使用することが多いと思うのですが、図2のように、可能な範囲で複数の指標を活用して総合的な視点で栄養アセスメントを行う必要があります。加えて、その栄養不良状態が「長期間にわたって継続しているものなのか」「ここ数日間の短期間で栄養不良状態が発生し急激に悪くなったものなのか」といった判断も適切に行い、後の対応がスムーズに行えるように十分な栄養評価を実践してみましょう。

図2 必要エネルギー量の算出図2 必要エネルギー量の算出
Q02

褥瘡が発生している患者への栄養管理はどのようにすれば良いのですか?
(栄養管理法の基本と投与栄養素の基本について)

A

 褥瘡の治療は、図1.のように「除圧・体圧管理(体位変換や体圧分散マットレス)」「スキンケア、局所治療」「栄養管理」が治療の三本柱とされ、バランス良く対応することが求められています。しかし、「除圧・体圧管理」や「創床環境調整(wound bed preparation)」「湿潤療法(moist wound healing)」などスキンケアを試みても治療効果を十分に得ることが出来ない症例も多く存在しており、その患者背景には「栄養不良・低栄養状態」が大きく関与していると考えられています。患者の入院前からの身体的状態(体重変化)や摂食状態などのチェック(栄養評価)を適切なタイミングで行い、加えて社会的環境なども踏まえて、総合的な視点を持って褥瘡治療における適切な栄養管理計画を立案することが求められています。
 さて、褥瘡発生に関連する栄養不良・低栄養状態は、一般的に長期にわたる摂食不良によって引き起こされることが多いとされています。全身的な褥瘡発生の要因を考えた場合、原疾患の治療で必要となる手術後などのストレス、炎症、感染症などにより消耗状態に陥り必要エネルギー量が増大することになりますが、前述したような食欲低下が加わることにより必要となる食事摂取量の低下の要因が複合され、体内免疫力の低下などと相まって、創傷の治癒遅延のみならず新たな褥瘡の発生へと結びつくと考えられています。
 例えば、呼吸器疾患などでるい痩があり臥床状態にある患者は、消耗状態にあるにも関わらず、食欲もなく臥床状態にあるという理由から、十分なエネルギー補給が行われていません。また、経口摂取が進まないことを理由に、長期輸液管理となっている患者も多く、たんぱく質・エネルギー低栄養 (protein energy malnutrition : PEM) 状態にあることが危惧されています。ただし、このような症例では、栄養障害のリスク指標とされる血清アルブミン(Alb)値が基準値内であることも多いため、栄養不良のチェックが遅れ、経口摂取がほとんどできないという悪化した状態からの対応を迫られる患者が多いのも事実です。このような状態では、骨格筋量の減少が頻発しており、圧迫などの持続により容易に褥瘡を作ってしまうことにもなるので、早急に実際の栄養補給方法、摂取(投与)栄養量、身体組成のチェックが重要となります。

「褥瘡予防・管理ガイドライン(第3版)」にみる栄養管理のポイント

エビデンスに基づく褥瘡予防・治療を行う際、ガイドラインが重要となりますので、以下は、「褥瘡予防・管理ガイドライン(第3版)」に示された栄養管理項目のQ&Aをもとに解説します。参考にしてください。

Q1.低栄養患者の褥瘡予防には、どのような栄養介入を行うと良いか?

A1.たんぱく質・エネルギー低栄養(PEM)状態の患者に対して、疾患を考慮した上で、高エネルギー・高たんぱく質のサプリメントによる補給を行うことが推奨されています。すなわち、通常の食事だけでは十分な栄養摂取が難しいPEM患者における高エネルギー・高たんぱく質のサプリメント(1日200kcal程度の栄養補助食品)の追加は、褥瘡予防に対して効果があるとされていますので、経腸栄養剤を選択する場合などにも、エネルギー面では、1.5~2.0kcal/mLと少量で十分なエネルギー補給が行えるものを選択したり、たんぱく質含有量の多いものを選択することが求められます。(ex. ペムベスト®

Q2.褥瘡患者にはどのような栄養補給を行うのが良いか?

A2.(詳細は、下記に栄養管理のポイントとして述べますが)①褥瘡治癒のための必要エネルギーとして、基礎エネルギー消費量(BEE)の1.5倍以上を補給することが推奨されており、NPUAP/EPUAPのガイドラインにおいては、30~35kcal/kgが望ましいとされています。②たんぱく質量については、経管栄養にて高たんぱく質栄養剤(エネルギー比25%)の投与を行った場合に、褥瘡面積の縮小が見られたとの報告もあり、NPUAP/EPUAPのガイドラインでは、疾患を考慮しながら1.25~1.5g/kg/dayを推奨しています。しかし、今回のガイドラインでは、必要量に見合ったたんぱく質を補給するとして具体的数値の提示は行われていないのが現状です。特に、後期高齢者などでは、腎機能が低下している場合もありますので、注意してたんぱく質投与量を設定しましょう。

Q3.褥瘡患者に特定の栄養素を補給することは有効か?

A3.褥瘡の予防および治癒において、「亜鉛」「アルギニン」「アスコルビン酸」などの投与が有効であったとの報告もありますが、エビデンスレベルの高い有用文献が少ないため、ガイドラインでは「欠乏がないように補給してもよい」との記述になっています。すなわち、特定の栄養素のみで褥瘡の栄養管理は困難であり、図3.のように、種々栄養素を褥瘡の病期、レベルに応じて過不足無く補給することが重要であると考えてください。特に「亜鉛やアルギニン」はコラーゲンの合成に関与し、肉芽形成に重要な役割を果たすことから、病期に応じて、ビタミンやミネラルといった微量栄養素を強化した栄養剤を有効に活用しましょう。(ex. アルジネード®、ブイ・クレス®

図3 褥瘡のレベルと栄養管理図3 褥瘡のレベルと栄養管理

基本となる栄養量設定

褥瘡患者に見られる「低栄養状態」には、図4.のように「マラスムス型」や「クワシオコール型」と呼ばれる栄養不良が存在します。栄養不足のタイプを適切に判断して、以下に示します各種栄養量の設定を行うことが重要です。

図4 低栄養の発生要因図4 低栄養の発生要因

(1)必要エネルギー量の設定

 褥瘡が発生していることにより身体への侵襲、感染などによりエネルギー需要量が増大していることは理解に難しくありません。すなわち、必要エネルギー量の設定については、EPUAP-NPUAP合同ガイドライン1)においても30~35kcal/kgの投与量が望ましいとされていることから、十分なエネルギー量を確保することが重要です。また、十分なエネルギー量の補給は、たんぱく質と補給による創傷治癒効果を促進する意味からも重要となりますが、常に投与後の栄養状態を確認しながら投与量を再調整する必要があることを念頭に置いて栄養管理を進めて頂く必要があります。
 一方、急性期の患者には間接熱量計などによる基礎代謝量(BEE)の実測を行うことが推奨されていますが、BEEが実測できない場合には、一般的に基礎代謝量の算出にハリス・ベネディクトの式を用いて設定を行います。注意点としては、ストレス係数(SF)の設定で、褥瘡があれば1.5と設定することが多くの書物に記載されていますが、あくまでも、患者の体重変化(増減)を確認し、繰り返し設定されたエネルギー投与量が適切であったかなどのチェックと見直しを行うことが必要です。特に、これまで絶食状態が続いていたり、摂取量がほとんどない患者へ高エネルギーを投与した場合には、「リフィーデイング症候群」が危惧されるので、最大限の注意を払って設定とチェックを行って頂く必要があります。

(2)必要たんぱく質量の設定

 急性期褥瘡で炎症の強い時期には、炭水化物の不足により白血球機能が低下し、たんぱく質の不足により炎症が遷延するとされています。そこで、褥瘡でのたんぱく質の摂取目安量は、1.25~1.5g/kg/dayの高たんぱく質による栄養管理が基本とされており、さらに、術後や外傷、感染症など急性期の代謝亢進ストレスが発生している場合には、たんぱく質必要量はさらに増加し1.5~2.0g/kg/dayの高たんぱく質による栄養管理が有用とされています。ここでも、褥瘡があるからといって、いきなり高たんぱく質な食事を提供(投与)するのではなく、これまでの食事摂取量などを確認し、一度1.0~1.2g/kg/day程度に設定し、特に高齢者では、栄養状態や腎機能(BUN/Cr、NH3)などのモニタリングを行いながら補正することが推奨されています。(DESIGNのdepthを活用する場合においても、3未満:1.25~1.5 g/kg/day、4以上:1.5~ 2.0 g/kg/dayとしてたんぱく質補給の目安量とすることも多く、皮膚の細胞を正常に働かせるためには、「必須アミノ酸」を含むたんぱく質を十分摂取させることが必要です。)特に、肉芽形成期にはたんぱく質、亜鉛の不足が線維芽細胞機能を低下させることになり、条件付必須アミノ酸としてアルギニンも注目されており、免疫機能、創部におけるコラーゲン沈着や創部に酸素や栄養を供給するための血流改善に関与し、生体が侵襲を受けた状態になると不足するとされているので、注意が必要です。

(3)水分補給の必要性と設定方法

 体内の水分は不感蒸泄、排尿、排便などから安静時においても1500mL前後が、活動時には2500mL前後が排泄発散するため、水分摂取を怠ると生命維持にも大きな影響を及ぼすことになります。水分自体は生命維持に必要な酵素や電解質、ビタミンなど各種化学伝達物質の溶媒としても働くなど生体には無くてはならない栄養成分であり、皮膚にも同様に必要不可欠な栄養成分であることは理解に難しくないと思います。
 さて、水分に対する要求度が低いとされる高齢者であっても、体重当たり30~35 mL/kg/dayは必要とされ、25 mL/kg/day以下になってしまう場合は早急な対応が求められます。また、発熱などで体温が37℃を超えた場合、必要水分量は体温が1℃上昇ごとに150mL/dayを増やすことを目安と考えており、重要な栄養成分であることを認識頂きたいと思っています。

【参考文献】
1) European Pressure Ulcer Advisory Panel and National Pressure Ulcer Advisory Panel: Prevention and treatment of pressure ulcers: clinical practice guideline. National Pressure Ulcer Advisory Panel, Washington DC, 2009
2) 上瀬英彦:在宅高齢者と亜鉛.臨床栄養,99(1):55-64,2001

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