医療従事者の経験に基づいたアイデアにより、科学的検証に耐える新規薬剤、治療方法、手術手技などが実現化されて医療は進歩してきた。ドレッシング治療に関しては、漁師は傷に昆布を巻いて治したという伝承や、戦時中にはセロハン紙(ご存知ない方がいるかも知れないが)を創部に貼付したとする記録がある。その後、湿潤環境を保つことが創傷治癒には好条件であることが科学的に証明され、古い治療法が実は科学的にも理に適ったものであることが理解されるようになった。いわゆるラップ療法(以下、ラップ療法)も医療従事者のアイデアから生まれたものの1つである。材料が廉価でコスト削減効果があり、有効例が喧伝されたことから一躍ブームとなった。
ラップ療法の有効性に関する臨床的検証に関しては、周到に計画されたランダム化比較試験が1編(水原章浩ほか。日本褥瘡学会誌 13(2):134-141, 2011)ある。この検討では、体幹、転子部のII度もしくはIII度の褥瘡で、壊死組織が総面積の20%以下で炎症・感染がなく、ポケットはあっても2㎝以下のものを対象としている。その結果、標準的治療群とラップ療法群との間で複数の治療効果指標に有意差を認めなかったとしている。この臨床研究の重要なポイントは、「ラップ療法により標準的治療と同等の効果を得るには、正しく創を評価してラップ療法に適した褥瘡を選ぶという必要条件が存在する」ことであると筆者は理解している。
ラップ療法には2つの問題点がある。①ラップが医療用材料ではないこと、②ラップ療法がすべての病期に使用できる万能の治療法ではないことをすべての医療者が理解していないことである。①に関して、病院や施設ではラップではなく、医療用のポリウレタンフィルム材(オプサイトⓇフレキシフィックス、優肌パーミロールⓇなど)の使用を薦める。②に関して、ラップ療法に限ったことではないが、すべての外用薬やドレッシング材も万能ではなく、褥瘡(創傷)の状態に適したものを適宜使用しなければならない。したがって、褥瘡の状態を正しく評価(診断)できなければ褥瘡の局所治療を行うべきではない。これは褥瘡に限らず、医療の基本である。
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