体圧分散寝具は、ヒトの身体には凹凸(生理的彎曲)があるため、身体と寝具との接触領域に制限が加わりますが、沈めるや包む、経時的な接触部分の変化によって、接触領域や部分に加わる圧を調整しようとするものです。体圧分散寝具は、使用方法・素材・機能の3要素に分類されます。
使用方法からみた体圧分散寝具の分類では、特殊ベッド、交換マットレス、上敷マットレス、リバーシブルマットレスがあり、沈み込みが大きい順は、特殊ベッド>交換>上敷・リバーシブルとなります。また、素材の圧縮特性は「沈める」、流動性は「包む」に関連し、機能は、「沈める」「包む」「経時的な接触部分の変化」に関連すると指摘されます1)。
世に多く製品として流通している体圧分散寝具は、以下の表のように、素材別の特性と機能低下としてまとめることができます。
素材 | 特性 | 機能低下 |
---|---|---|
エア |
|
|
ウォーター |
|
|
ウレタン フォーム |
|
|
ゲル またはゴム |
|
|
ハイブリッド |
|
|
出典:日本褥瘡学会編集「在宅褥瘡予防・治療ガイドブック 第2版」日本褥瘡学会 発行元:照林社 2012:57 「表 体圧分散寝具の種類」の一部改編
【引用文献】
1) 日本褥瘡学会編集「褥瘡予防・管理ガイドライン」日本褥瘡学会 発行元:照林社 2009:49
体圧分散寝具は、患者の状況や条件に応じて選択する必要がありますが、一応の選択基準が示されています1)。
まず、自力体位変換ができるか否かで、体圧分散寝具の素材を決定します。自力体位変換が「あり」の場合は、沈み込み等による可動性を妨げない素材(例えば、ウレタンフォーム)を選択します。自力体位変換能力が「なし」の場合は、エア等の素材を選択します。
次には、日本人に特異的な要因としてあげられる骨突出の有無により、体圧分散寝具を選択します。骨突出「あり」の場合には、二層式エアセルマットレスが有効とされています。さらに、頭側拳上を45度以上にする場合が「ある」時には、底付き防止と共に姿勢保持機能がある厚み10cm以上の体圧分散寝具を選択するとなっています。以下、その選択方法を図に示します。(図1)
このように体圧分散寝具は、本来患者に合わせて選択されるべきものです。しかし臨床現場では、体圧分散寝具は高価なものであるため、病院・施設等において十分な数や種類を完備し、患者に適した物を選択することが難しい現状もあります。されど、不適切な体圧分散寝具の選択・使用は、褥瘡を悪化させる他、患者のリハビリテーションを障害し自立の遅延となる可能性もあることを念頭におきましょう。
【引用文献】
1) 日本褥瘡学会編集「在宅褥瘡予防・治療ガイドブック 第2版」日本褥瘡学会 発行元:照林社 2012:58
快適な座位を保持するためには、クッションの材質や形状が重要となります。最近は、座圧の適正分布を促し、褥瘡を予防することを目的としたクッションが多く開発されるようになりました。クッションの材質・形状・流動か非流動か、カバーの材質・通気性など、比較検討する項目が多くあります。
ここでは、代表的なクッションの材質(表1)とシートの形状(種類)(表2)についてまとめます。
クッションの材質 | 長所 | 短所 |
---|---|---|
ウレタン |
|
|
空気室(エア) |
|
|
ゲル、ジェル等の流動体 |
|
|
*ウレタンやゲル/ジェルのハイブリッドもある。長所・短所は、一概に示すことが難しい。
出典:日本褥瘡学会編集「在宅褥瘡予防・治療ガイドブック 第2版」日本褥瘡学会 発行元:照林社 2012:67 表の一部改編
種類 | 適応と特徴 | 留意点 |
---|---|---|
張り調整式 シート |
|
姿勢の保持性は不十分で重度の障害者の機能的座位を目的とした座位保持装置には不向き。 |
ソリッド式 シート (平板シート) |
|
接触面が少なく、支持性が低いので、必要に応じて各種保持部品を組み合わせる。 骨突出部の除圧対策が必要。 |
コンターシート -個別製作- |
|
フィッティングはよいが、体重移動や姿勢変換の制限大。通気性不良。 成長などの変化に対応できない。 |
コンターシート -既製品- |
|
個別製作のシートとほぼ同様。価格や供給体制の問題からこれまであまり普及してこなかった。 |
出典 光野有次他著「シーティング入門-座位姿勢評価から車いす適合調整まで-」中央法規 2007:84 表3の改編
車いすクッションの使用の目的は、1)体圧分散、2)姿勢保持、3)動きを助けるになりますが、この3要素すべてに満点のクッションはありません1)。患者の状況・条件・状態等に応じて、3要素の何を優先しなくてはいけないかを考慮し選択することが重要です。
まず体圧分散については、厚みと沈み込み・柔らかさが重要で、体圧分散寝具と同様です。ただし柔らかいクッションを座面にすると、接触している骨盤は支持されないため不安定になります。不安定な骨盤を土台にすると、その上に繋がる体幹や上肢はバランスを取ろうと緊張する他、動きづらさも誘発するため、体圧分散されつつ座面の安定性が保たれているかアセスメントすることが重要です。
姿勢保持のためには、坐骨の前方支えがあり、骨盤と大腿部を固すぎず・柔らかすぎず、しっかり支えてくれるクッションが必要です。
動きを助けるためには、坐骨の前方支えがあり、骨盤をしっかり支えてくれるクッションとなります。患者のどのような動きを助けたいのか考慮しなくてはなりません。足駆動をする場合では、クッションの大腿部が固すぎると大腿部が下方へ沈まず、足への荷重が十分に行えないなどが起こります。このようにクッション選びは、クッションの機能が十分に発揮され目的が達成されるよう、車いす(座、背、足、角度)との整合性が図れるものを選択するとよいでしょう。
逆に選んではいけないクッションとして、円座・座布団・低反発クッションがあります。ドーナツ型の円座は、座位姿勢及び褥瘡予防の観点からクッションとして選択することは不適です。円座の形状で支えられると骨盤は不安定になり、身体が傾いたり、滑り座り(坐骨座り)になる他、接触面積も狭く、体圧分散が不十分な上に、穴の周囲に圧力やずれ力がかかります。座布団や低反発クッションの使用も不適です。座布団は、固すぎるか柔らかすぎて底付きの原因となります。低反発クッションは、すっぽり臀部が沈みこみ固められたような状態となるため、体重移動が行いにくくなり、動きづらさを起こします。
車いすクッションを使用する目的を理解し、患者に適したクッションを選びましょう。
【引用文献】
1) 窪田静総監修「生活環境整備のための“福祉用具”の使い方」日本看護協会出版会 2010:82
●褥瘡一問一答 索引