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ヘマンジオル連携フロー 入院導入:聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院(神奈川県横浜市)


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    聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 小児科 山下 敦己先生

    聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 小児科
    山下 敦己 先生

    【ご略歴】
    聖マリアンナ医科大学 小児科 診療助手、助教、2016年から2年間米国のThe Scripps Research Instituteへの留学を経て2019年4月より聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 小児科 副部長・講師
    日本小児科学会専門医・指導医、日本がん治療認定医機構認定医、日本血栓止血学会認定医

    聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院小児科における乳児血管腫患者さんの特徴

    聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院小児科に来院する乳児血管腫の患者さんの特徴を教えてください。

    当院では、ヘマンジオル(商品名:ヘマンジオルシロップ小児用0.375%, 以下ヘマンジオル)による乳児血管腫の治療は小児科が窓口となって実施しています。生後1ヵ月の健診時点で乳児血管腫を指摘され、紹介受診される生後1~2ヵ月の乳児期早期の患者さんが多いのですが、乳児期後期になってから紹介受診される患者さんもおられます。症状としては、生命や機能を脅かす合併症を伴っていたり、顔面に広範にみられたりするなど治療が強く推奨される/必要なケースもあれば、将来的に瘢痕が残っても気にならない部位・大きさの乳児血管腫で、一昔前なら「自然に消えていくから気にしないでください」と経過観察していたようなケースまで様々です。この1年間で小児科に紹介受診された乳児血管腫の患者さんは30名超おられ、その中でヘマンジオル治療を導入した患者さんは20数名です。

    乳児血管腫の診療体制

    乳児血管腫の患者さんはどのように診療されていますか。

    現時点では、私が窓口となって乳児血管腫の患者さんの治療適応を判断しています。外来診察では、まず、診察や事前検査を行い、患者さんが気管支喘息、低血糖、不整脈などの禁忌例を含め、ヘマンジオル治療を導入できるかどうかを判断します。ヘマンジオル治療を導入できると判断した場合には、患者さんのご家族に対して、『乳児血管腫(いちご状血管腫)の薬物療法について』(図1)をみせながら、「ヘマンジオルがどのような薬で、どのような副作用があるのか」「入院中には副作用を見つけるためにどのようなモニタリングを行うのか」などについて説明しています。ただし、入院スケジュールについては冊子の中に掲載されているような2日ずつ間隔をあけて1mg/kg/日から3mg/kg/日まで増量する5泊6日入院ではなく、当科で実施している「1泊2日入院を1週間ごとに3回繰り返して1mg/kg/日から3mg/kg/日まで増量する」スケジュール(図2)で治療を行うことを説明しています。
    こうした一連の説明を行った後、患者さんのご家族にヘマンジオル治療を導入するかどうかを決めていただきます。来院時点で治療を始めるかどうか悩んでおられる方もいらっしゃるので、その際には1~2週間ご家族で良く相談し、再度来院して頂くこともしばしばあります。いずれにしろ、ヘマンジオル治療の導入が決まれば、ご家族の都合を考慮して月火、火水など、平日の同じ曜日で3週間連続の入院ができるタイミングで導入開始日を決め、入院予約をとっています。当院の小児科病棟はお預かり入院を原則とし、一部の疾患に対してのみ付き添い入院を許可しています。このヘマンジオル治療導入の1泊2日入院に関しては付き添い入院を可能にしており、予約時に希望をお聞きしています。

    図1:乳児血管腫(いちご状血管腫)の薬物療法について

    クリニカルパスを用いたヘマンジオル治療導入の実際

    5泊6日ではなく、1泊2日の入院にされた理由を教えてください。

    5泊6日の入院は、ご家族が付き添いされる場合にはご家族の負担になりますし、お預かりした場合、完全母乳栄養の患者さんは一定期間断乳せざるをえないことになります。その結果、現在の1泊2日入院を3回繰り返すというスケジュール(図2)を考案しました。

    図2:ヘマンジオルの増量方法(1泊2日入院での実施)

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    図2:ヘマンジオルの増量方法(1泊2日入院での実施)

    1泊2日入院によるヘマンジオル治療導入スケジュールを具体的に教えてください。

    ご家族が月・火曜日の1泊2日入院を希望されたとすると、1週目の月・火曜日に1泊2日入院してヘマンジオル1mg/kg/日で投与を開始し、2週目の月・火曜日の1泊2日入院時にヘマンジオルを2mg/kg/日に増量し、3週目の月・火曜日の1泊2日入院でヘマンジオルを3mg/kg/日に増量します(図2)。1泊2日入院は3回とも、『血管腫治療クリニカルパス・医療者用(以下、クリニカルパス)』(図3)に基づいて運用しています。これは、病棟で患者を担当する医師/看護師が固定されておらず、ヘマンジオル治療を導入する際、初回投与時及び増量時にモニタリングすべき事項はある程度決まっていることから、病棟のどの医師/看護師が患者さんをみても、統一された方法で確実にモニタリングできるようにするためです。
    担当医が体重を確認して、ヘマンジオルの投与量を決定・処方した後は、病棟看護師がクリニカルパスに則って、『患者用クリニカルパス』(図4)を用いてご家族に1泊2日の入院中の生活やタイムスケジュールを説明し、患者さんにSpO2モニター、心電図モニターを装着し、ヘマンジオル初回内服前にバイタルサイン(心拍数、血圧、呼吸数、血糖値などクリニカルパスで決められた項目)を確認し、問題がなければヘマンジオルを投与します。その後、内服1時間後、2時間後にバイタルサインや下痢、嘔吐などの副作用の有無を確認します。2回目(入院当日の夜)及び3回目(入院翌日の朝)の内服時も同様に行い、3回目の内服2時間後のバイタルサインに問題がなく、下痢、嘔吐などの副作用もなければ、患者さんは退院となります(図3)。
    クリニカルパスの『医師指示』の項目には、嘔吐時は追加投与を中止することや、喘鳴が認められる時及び年齢別に定められたSpO2、心拍数、血圧、呼吸数、血糖値などに異常がみられた場合など、ドクターコールの条件が示されているため、異常があればすぐ医師が介入できるようになっています。また、退院後はご家族自身が患者さんにヘマンジオルを投与しなければならないため、入院中に病棟看護師が投与方法を実演して説明し、服薬を嫌がった場合の飲ませ方のコツについてアドバイスするなど、退院後もご家族が上手く投与できるようにサポートしています。

    図3:血管腫治療クリニカルパス・医療者用
    図4:患者用クリニカルパス

    クリニカルパスを上手く運用するためのコツはありますか。

    実際に1泊2日のクリニカルパスを運用してみると、入院当日の初回投与が昼頃になると、次の投与まで9時間あける必要があるため、2回目の投与が21時頃になり、投与1時間後、2時間後のバイタルチェックが22時、23時頃と深夜近くに及ぶため、患者さんやご家族にとっても、医療スタッフにとっても負担が大きくなります。そこで、入院当日の初回投与は遅くとも11時までに、できれば10時頃にできるように、患者さんとご家族には「朝9時には病院に来てください」と事前に説明し、できるだけ早い時間に小児科病棟に入院していただくようにしています。
    また、外来診察時にご家族に対してヘマンジオルの治療スケジュールや副作用などについて一通りの説明を行っていますが、ご家族がご自宅で適切にヘマンジオル治療を実施できるようにするためには、「ヘマンジオルがどのような薬で、どのように使えばいいのか、副作用をはじめどのようなことに気をつけなければならないのか」などをしっかり理解できるように“繰り返し”説明することが大切です。入院期間は1泊2日と短いため、その間に医療スタッフが効率よく患者さんやご家族に関わるためには、医療スタッフ同士の連携が必要だと考えています。当院では各病棟に専属の薬剤師が常駐していることから、病棟の担当医や病棟看護師のほかに、小児科病棟の薬剤師にもヘマンジオル治療導入1泊2日入院に介入していただいています。

    ヘマンジオル治療導入における連携の工夫

    では、実際、小児科病棟の薬剤師とはどのように連携されているのですか。

    当院は、電子カルテ上に、1週間分ずつ、入院予定の患者さんの氏名、入院予定日、入院病名が1つのラインで表示されるようになっています。私も口頭で連絡するようにはしていますが、小児科病棟の薬剤師は、電子カルテを見てあらかじめ乳児血管腫の患者さんがいつ、ヘマンジオル治療導入目的で入院されるのかを把握し、説明の準備をしています。
    基本的に、入院当日の初回投与から2回目投与までの空き時間を活用して患者さんとご家族に説明していただいていますが、初回入院時には必ず、『乳児血管腫(いちご状血管腫)の薬物療法について』(図1)を用いて、「ヘマンジオルがどのように発見されたのか」や「シリンジの使い方、洗い方」「薬の保管方法」のほか、「主な副作用」「副作用の気づき方」「副作用の予防対策」「副作用発現時の対応」などについて説明しています。また、ご家族がご自宅に戻っても説明の内容を確認できるように『ヘマンジオルシロップ小児用0.375%を服用するお子様の保護者の方へ』(図5)の冊子を渡しています。
    2回目の入院時には、初回入院時の説明の中で重要なことを繰り返して説明するほかに、「ヘマンジオルは3回目の入院が終わってから、半年ぐらいは飲み続ける必要があること」について説明します。また、3回目の入院が終わった後は院外処方になるため、かかりつけ薬局でスムーズにヘマンジオルを渡してもらえるように、院外薬局への伝達事項をシールにしたものを患者さんのお薬手帳に貼付し、ご家族の方には「次回の入院までにかかりつけ薬局の薬剤師にお薬手帳を見せておく」ように説明しています。シールには、ヘマンジオル治療の開始日、増量予定、今後約半年間治療を行うために薬の取り寄せをお願いしたい旨を記載しています。
    3回の入院が終われば、次の診察は1ヵ月後になるため、3回目の入院時には必ず私がご家族とお話しする時間を設け、知識の最終チェックという意味合いをこめて、「どのような時に内服させてはいけないか」について質問したり、「嘔吐したり、経口摂取量が落ちたりした時は、内服させないこと」を説明しています。

    図5:ヘマンジオルシロップ小児用0.375%を服用するお子様の保護者の方へ

    ヘマンジオル維持用量投与中のフォローアップ

    3回目の1泊2日入院でヘマンジオルを維持用量まで増量した後はどのようにフォローアップされていますか。

    3回目の入院の1ヵ月後に小児科の外来を受診して頂き、必要に応じて皮膚科と併診しています。血管腫のサイズの変化や副作用などを確認しつつ、ヘマンジオルをやめる時期やレーザー照射療法併用の必要性を探っていくかたちでフォローしています(図2)。小児科外来は必ず毎月1回の頻度で受診していただきますが、皮膚科外来は、毎月だったり、3ヵ月に1回だったり、ヘマンジオルをやめる頃に血管腫が少し残っている場合だけといった具合に皮膚科医が受診の必要性を判断しています。

    メッセージ

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    山下敦己先生

    乳児血管腫に対して初回入院時にヘマンジオル1mg/kg/日を投与し、2回目入院時に患者さんを診ると「かなり変わりましたね」と言えるケースを少なからず経験しています。
    当初、私自身は、1泊2日とはいえ3週連続で病院に泊まらなければならないのは、ご家族にとって面倒なのではないかと感じていたのですが、実際にご家族の反応をみていると思いのほか受け入れが良く、これまでに「5泊6日の1回の入院で維持量まで増量して欲しい」という方はおられません。
    当科の1泊2日入院のクリニカルパスを導入の1つの方法として参考にしていただき、小児科の医師や看護師だけでなく、薬剤師や皮膚科医、さらには院外薬局の薬剤師と連携しながら、ご家族の負担を軽減しつつ、安全に確実にヘマンジオル治療を導入していただければと思います。

    • 当該クリニカルパスは全ての患者に当てはまるものではなく、医師の判断で参考にしてください
    • 当該クリニカルパスはヘマンジオル適正使用ガイド監修医が内容を確認しており、適正使用から逸脱したものではございません
    ヘマンジオル連携フローの実態
    1. 外来導入:公立学校共済組合 関東中央病院(東京都世田谷区)
    2. 入院導入:聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院(神奈川県横浜市)

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