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ヘマンジオル連携フロー 外来導入:公立学校共済組合 関東中央病院(東京都世田谷区)


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    公立学校共済組合 関東中央病院 皮膚科 鑑 慎司先生

    公立学校共済組合 関東中央病院 皮膚科
    鑑 慎司 先生

    【ご略歴】
    東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部附属病院皮膚科、関東労災病院皮膚科を経て2008年よりOregon Health & Science University博士研究員。帰国後は東京大学医学部附属病院皮膚科助教、講師を経て、2012年4月より関東中央病院皮膚科部長。
    日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本レーザー医学会レーザー専門医・指導医。

    公立学校共済組合 関東中央病院における乳児血管腫患者さんの特徴

    公立学校共済組合 関東中央病院に来院する乳児血管腫の患者さんの特徴を教えてください。

    私は大学病院時代から乳児血管腫の診療にあたっており、その当時はパルス幅可変式色素レーザーによる治療をしていました。症例によっては3ヵ月に1回、多い場合にはほぼ毎月パルス幅可変式レーザーを照射しました。局面型には有効な一方で、腫瘤型や皮下型では乳児血管腫の増殖を阻止できないことがありました。ところが米国留学中の2008年ごろより、非選択性β遮断薬のプロプラノロールが乳児血管腫の早期縮小に有用で副作用が少ないことがさまざまな国から報告されるようになりました。そこで、帰国後の2010年12月より、私は東京大学医学部附属病院で、生後1~4ヵ月齢で、乳児血管腫が拡大中の患者を対象にプロプラノロールの有効性と安全性を検証する医師主導の自主臨床試験(前向き研究)を実施しました。プロプラノロールはパルス幅可変式レーザーやドライアイスよりも早期に乳児血管腫を退色、縮小させることができました。2012年4月に関東中央病院へ赴任してからも同様の臨床試験を続けて、今に至っています。
    こうした経緯から、私のところには近隣の医療機関から、乳児血管腫で、プロプラノロール塩酸塩シロップ(商品名:ヘマンジオルシロップ小児用0.375%, 以下ヘマンジオル)を希望している患者さんが紹介されてきます。ただし、内服治療をどれぐらい本気で受けようと考えていらっしゃるのかは定かではなく、「乳児血管腫の治療に詳しい医師の話を一度聞いてみたい」というセカンドオピニオン的な意味合いで紹介されてくる患者さんも少なくありません。2016年9月にヘマンジオルが発売されてからこれまでの約2年間に、近隣の医療機関から約40名の乳児血管腫の患者さんが紹介されました。そのうち、瘢痕が残っても気にならない大きさの乳児血管腫や、瘢痕が残っていても気にならない部位にある局面型乳児血管腫、明らかに退縮期に移行した乳児血管腫など、経過観察でよいケースが半数ほどみられ、実際にヘマンジオル内服治療を受けることになったのは20名ほどです。

    乳児血管腫の診療の流れ

    乳児血管腫の患者さんはどのように診療されていますか。

    当院には、小児科病棟がないため、乳児血管腫の患者さんは全例、皮膚科外来で診療しています。また、当科にはパルス幅可変式色素レーザーがないため、レーザーでの治療を希望される患者さんには他医療機関を紹介します。私のところに患者さんが紹介されてくると、初診時の外来受付で看護師から患者さんのご家族に『乳児血管腫(いちご状血管腫)の薬物療法について』(図1)をお渡しし、外来診察の順番がまわってくるまでの間に、一通り目を通しておいてもらうようにしています。

    図1:乳児血管腫(いちご状血管腫)の薬物療法について

    外来診察では、治療が必要か、経過観察でもよいかを判断し、治療が必要だと判断した場合には、患者さんのご家族に、パルス幅可変式色素レーザーとヘマンジオル内服治療があることを説明し、選択いただいています。その際、「増殖期は、どんどん広がって、どんどん盛り上がってきます。それを一日でも早く阻止したいのであれば、ヘマンジオル内服治療が良いですよ」とお話しします。その結果、ヘマンジオル内服治療を選ばれた場合は、小児科で気管支喘息などの禁忌例ではないかを含め、ヘマンジオル内服治療を実施して良いかどうかのスクリーニングを受けていただきます。スクリーニングで何も問題がなければ、皮膚科外来で、私が患者さんの体重に応じてヘマンジオルの初回投与量(1mg/kg/日)を処方し、次回と次々回、すなわちヘマンジオルを増量(2mg/kg/日)及び再増量(3mg/kg/日、維持用量)する日の外来受診予約を入れます。これは患者さんによって異なりますが、多くは中1日ごと、長くても1週間ごとには来院していただいています(図2)。その後、皮膚科外来の処置室で、外来看護師が中心となり、ヘマンジオル内服治療を開始します。

    図2:ヘマンジオルの増量方法(外来管理での実施)

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    図2:ヘマンジオルの増量方法(外来管理での実施)

    ヘマンジオル適正使用ガイドより一部改変

    へマンジオル導入における連携の工夫について

    ヘマンジオル内服治療を行う予定の患者さんはすべて小児科で診察を受けられるのですか。

    当院の場合は、心音・肺音聴診のほか、全例に心電図、心臓超音波検査を実施しています。ただし、小児科医が心音・肺音聴診で何も異常がないと判断し、なおかつ先天性心疾患や不整脈(心ブロック、QT延長症候群、突然死)の家族歴がない、母親に膠原病がない、不整脈の既往がないということが確認できれば、全例に心電図、心臓超音波検査を実施する必要はないと思います。

    皮膚科の外来看護師が中心となってヘマンジオル内服治療を開始するとのことでしたが、具体的にご説明ください。

    皮膚科外来の処置室で、看護師は『乳児血管腫(いちご状血管腫)の薬物療法について』(図1)の内容に則って、ご家族にヘマンジオルをどのように患者さんに飲ませるかについて説明します。そこで、服用に関する注意点として、とくに強調しているのは、「子どもさんが下痢や嘔吐をしているとき/お腹を空かせているとき/食事中(哺乳中)、または食後(哺乳後)すぐに服用させなかったときには、その回は服用を中止する」ということです。低血糖はいつ起こるか分からず、空腹時には低血糖が起こりやすくなるからです。また、ご家族には、万一、蒼白や発汗、体温低下、反応が悪いなどの低血糖症状がみられたら、すぐに母乳でもミルクでも糖分でも何でもいいので摂取させて、症状が続けばすぐに医師に相談するように指導しています。その他の副作用については、ご家族の反応をみながら説明しています。
    このような一連の説明を終えたら、看護師が患者さんの心拍数、呼吸数、血圧、血糖値を測定し、いずれも正常範囲内(図3)であれば、デモンストレーションをかねて、患者さんにヘマンジオルを投与します。ここでも、念のため、低血糖を起こさないように、ご家族に患者さんが空腹でないことを確認するようにしています。その後、投与1時間後、2時間後に、同様に看護師が患者さんの心拍数、呼吸数、血圧、血糖値を測定し、いずれも正常範囲内にあることを確認したら、その日の診察は終了です。この2時間の間は、ご家族と患者さんには院内の待合室や授乳室などでゆっくり過ごしていただくようにしています。

    図3:乳児の検査における心拍数、血圧、呼吸数、血糖の年齢層別正常範囲1~4)

    年齢 心拍数
    (回/分)
    血圧
    (mmHg)
    呼吸数
    (回/分)
    血糖
    (mg/dL)
    生後0~3ヵ月未満 100以上
    150以下
    65以上85以下
    /45以上55以下
    35以上
    55以下
    40以上
    200未満
    生後3~6ヵ月未満 90以上
    120以下
    70以上90以下
    /50以上65以下
    30以上
    45以下
    生後6~12ヵ月未満 80以上
    120以下
    80以上100以下
    /55以上65以下
    25以上
    40以下
    1歳超~ 70以上
    110以下
    90以上105以下
    /55以上70以下
    20以上
    30以下

    ※新生児期は30mg/dL

    1. ISS/臨床的安全性 統計解析計画書第3.0 版の15.1(5.3.5.3 – Vol. 2)
    2. Mathers LH and Frankel LR. Pediatric Emergencies and Resuscitation, Nelson Textbook of Pediatrics 18th edition. 2007; chapter 66: 389
    3. 田中敏章 編. 小児の臨床検査基準値ポケットガイド第2版, じほう, 2014
    4. 長谷川奉延. 他. 高インスリン血性低血糖症の診断と治療ガイドライン, 日本小児科学会雑誌 2006; 110(10): 1472-1474

    ご家族と患者さんが帰宅される時には、看護師がご家族に『ヘマンジオルシロップ小児用0.375%を服用するお子様の保護者の方へ』(図4)の冊子を渡すとともに、「何か困った事があれば外来に電話してくること」や、「次回の診察日は、増量日/再増量日となり、病院で投与するので、薬を投与せずに来院すること」をしっかりと伝えています。

    図4:ヘマンジオルシロップ小児用0.375%を服用するお子様の保護者の方へ

    小さな子どもさんにヘマンジオルを飲ませるのは難しいと思いますが、何かコツのようなことをご家族にお話しされていることはありませんか。

    コツとしては、例えば、ヘマンジオルは専用ピペットで投与するようになっているのですが、患者さんが専用ピペットを嫌がるようであれば、哺乳瓶のゴム乳首を代用すればよいとか、患者さんがあまりにも嫌がるようであれば抱っこしながら飲ませても構わないということを説明しています。

    へマンジオル維持用量投与中のフォローアップ

    ヘマンジオルを維持用量まで増量した後はどのようにフォローアップされていますか。

    ヘマンジオルを維持用量まで増量した後は、何も問題がなければ、月1回の頻度で皮膚科外来を受診していただき、ヘマンジオルの有効性、安全性や服薬状況の確認のほか、体重増加による投与量の再計算や患者さんの状態に応じて適宜減量を検討しています。
    ヘマンジオルによる治療の終了については、投与終了後に乳児血管腫が再発・再燃することがあり、その予測は困難ですが、私からご家族には「年をとればとるほどヘマンジオル投与終了後の再発・再燃率は減るので、1歳ぐらいまで、あるいは1年ぐらいは投与し続けたほうが良い」ことを伝えています。とくに、再発しやすいとされている「女の子」「大きさが5cm以上」「腫瘤型」「分節状に分布している」ケースについては、長期に投与することを推奨しています。いずれにしろ、ヘマンジオル投与終了後、3ヵ月目、及び6ヵ月目に当科を受診していただき、再発・再燃の有無を確認するようにしています。
    その他、ヘマンジオル内服治療を行い、乳児血管腫の拡大、隆起は阻止したものの、紅斑が残るという場合があります。ご家族の希望があれば、他の医療機関に紹介して、パルス幅可変式色素レーザーを施行していただくことがあります。

    へマンジオルを外来で導入するポイント

    ヘマンジオルを外来で導入するためのポイントを教えてください。

    ヘマンジオル内服治療を実施するには、皮膚科医1人だけでは不可能です。例えば、当院のように小児科医と連携し、皮膚科外来看護師の全面的な協力が必要になると思います。ただ、幸いにも、ヘマンジオル内服治療を必要とする患者さんはそれほど多くはなく、小児科医が問題なしと判断した患者さんであれば、空腹時に投与しないことなどに注意していれば、ほとんどトラブルなくヘマンジオルを外来で導入できます。ただし、小児科と相談した結果、対象患者は修正月齢1ヵ月以上としています。修正週数5週未満の乳児にヘマンジオルを導入する際は入院管理が望ましいです。

    メッセージ

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    鑑慎司先生

    患者さんやご家族にとって、ヘマンジオル導入のための入院はかなりハードルが高く、入院しなければならないことでヘマンジオルによる治療を諦めているご家族や患者さんもいるようです。しかし、私たちは、小児科病棟がなくても、パルス幅可変式色素レーザーができなくても、外来にて、ヘマンジオル内服による乳児血管腫の治療を行っています。確かに、ヘマンジオル導入時は外来看護師の協力が必要ですが、患者さんの数はそれほど多いわけではありません。修正月齢1ヵ月以上で、小児科医がヘマンジオル内服治療可能だと判断した患者さんであれば、外来でヘマンジオルを導入できると思っています。

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