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帯状疱疹関連痛の臨床経過と治療のポイント


    監修:
    • 獨協医科大学 麻酔科学講座 主任教授 山口 重樹 先生

    帯状疱疹関連痛の臨床経過と治療のポイント

    帯状疱疹関連痛(ZAP:Zoster-Associated Pain)とは帯状疱疹に関連した痛みの総称で、時間の経過とともに痛みの病態・性状が変化します。ZAPは患者のQOL(Quality of Life)を著しく低下させるため、発症早期から痛みの病態に応じた適切な薬物療法を行うことが重要です。ここでは、ZAPのメカニズムと段階に応じた薬物療法についてご紹介いたします。

    帯状疱疹関連痛のメカニズムと臨床経過

    帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV:Varicella-Zoster Virus)による感染症で、初感染では水痘として発症します。

    初感染後、神経節に潜伏感染したVZVは、免疫力の低下などをきっかけに再活性化し、帯状疱疹を発症します。再活性化したVZVは神経線維束に感染しながら皮膚へ下降するため、再活性化した特定の神経支配領域に片側性の痛みと水疱が出現します。

    多くは皮膚症状の改善後、痛みも経時的に消失していきますが、長期にわたって残存する場合もあります。帯状疱疹における急性期の痛みや帯状疱疹後神経痛(PHN:Postherpetic Neuralgia)は総称してZAPと呼ばれます。ZAPは患者のQOLのレベルを低下させ、心身に大きな影響を及ぼすことが分かっています(図11)

    このため、帯状疱疹治療では、痛みの治療が重要です。帯状疱疹治療の基本は、抗ヘルペスウイルス薬の全身投与です。抗ヘルペスウイルス薬の早期投与によりウイルスの増殖が抑えられ、皮疹の早期改善だけでなく、ZAPが消失するまでの期間を短縮することができます2)

    図1:帯状疱疹関連痛とQOL(海外データ)
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    図1 帯状疱疹関連痛とQOL(海外データ)

    ZAPは、時間の経過とともに病態・性状が変化します。帯状疱疹の急性期には皮膚組織の炎症を伴った「侵害受容性疼痛」、その後に「神経障害性疼痛」が出現します。この移行期には両方の痛みが混在することもあります(図23)

    図2:帯状疱疹関連痛の臨床経過
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    図2 帯状疱疹関連痛の臨床経過

    侵害受容性疼痛は、ウイルス感染や炎症などによって健常な組織が傷害されることに伴う痛みであり、帯状疱疹の発症を知らせるサインと捉えられます。これに対して神経障害性疼痛は、急性期の炎症に起因した末梢あるいは中枢神経系の機能異常による病的な痛みで、痛みそのものが病気であると言えます。

    このように、ZAPでは病態の異なる2つの痛みが存在し、これらが臨床経過とともに変化することが大きな特徴です。

    急性期(侵害受容性疼痛)の治療

    帯状疱疹発症の数日前から生じる前駆痛や帯状疱疹による痛みは、主に侵害受容性疼痛です。痛みの訴え方としては、「ヒリヒリ」「チクチク」「ピリピリ」などといった表現が多く用いられます。

    帯状疱疹が軽症の場合には、皮疹の痂皮化に伴い、侵害受容性疼痛は次第に軽減していきますが、重症例では神経障害性疼痛の様相が侵害受容性疼痛と同時期に見られるようになります。

    侵害受容性疼痛の治療は、NSAIDsやアセトアミノフェンを主に用います(表1)。これらの効果が不十分な場合には、オピオイド鎮痛薬の投与を考慮します4)

    表1:痛みの性状と薬剤の選択肢(侵害受容性疼痛)
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    表1 痛みの性状と薬剤の選択肢(侵害受容性疼痛)

    なお、生理的に腎機能が低下した高齢者では、NSAIDsの使用により腎機能障害などの副作用を引き起こす恐れがあるため、アセトアミノフェンの使用を検討します。

    アセトアミノフェンを使用する際は、鎮痛効果を得るため1回あたり1,000mg程度の高用量の投与を検討します。
    高齢患者や全身状態不良患者では投与量や投与回数を調整し、例えば、成人患者では1回量1,000mg、1日量4,000mgを目安に投与しますが、高齢患者では1回量1,000mg、1日量2,000~3,000mgを目安に減量します(表2)。

    表2:アセトアミノフェンの処方例
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    表2 アセトアミノフェンの処方例

    帯状疱疹後神経痛(神経障害性疼痛)の治療

    帯状疱疹の皮疹が治癒した後も遷延する痛みであるPHNは、主に神経障害性疼痛です。重症例では皮疹が治癒する前から神経障害性疼痛が出現する場合もあります。

    高齢患者、帯状疱疹の皮膚病変が重症、帯状疱疹発症時の痛みが重度などの場合、PHNに移行しやすいため、帯状疱疹発症早期からの積極的な治療関与が必要です。

    痛みの訴え方としては、「一定した」「焼けつくような」「うずく痛み」などといった、火をイメージさせるようなものや、「速い痛み」「電気が走るような」「電激痛」などといった、電気をイメージさせるようなものが多く、このような訴えが患者からあった場合は、神経障害性疼痛への移行が疑われます(表3)。

    表3:痛みの性状と薬剤の選択肢(神経障害性疼痛)
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    図3 神経障害性疼痛 薬物療法アルゴリズム

    また、罹患部に衣服が触れる程度で痛みを感じるなど、通常では痛みを引き起こさない刺激によって発生する痛み(アロディニア)が見られるような場合では、神経障害性疼痛への移行が強く示唆されます。

    神経障害性疼痛は、痛みの重症度が高く、睡眠障害や活力の低下、抑うつなどさまざまな併存症を伴いQOLに大きく影響します。そのため、痛みだけでなくQOL改善にも着目して治療薬を選択します。

    「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂第2版」のアルゴリズム(図35)において、第一選択薬は、複数の神経障害性疼痛疾患に対して有効性が確認されているCa2+チャネルα2δリガンドであるプレガバリンやガバペンチン*1、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)であるデュロキセチン塩酸塩*1、三環系抗うつ薬(TCA)であるアミトリプチリン塩酸塩、ノルトリプチリン塩酸塩*1、イミプラミン塩酸塩*1です。

    第二選択薬は、1つの神経障害性疼痛疾患に対して有効性が確認されている薬物であるワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、オピオイド鎮痛薬の1つであるトラマドール塩酸塩*2です。

    そして、第三選択薬はトラマドール塩酸塩以外のオピオイド鎮痛薬*2となります。

    • *1:本邦承認外
    • *2:本邦一部承認外

    「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂第2版」のアルゴリズムの第一選択薬に記載されている薬剤のうち、プレガバリンとアミトリプチリン塩酸塩は、それぞれ神経障害性疼痛、末梢性神経障害性疼痛の適応を有しており、ZAPの治療によく用いられます。また、2019年に承認されたミロガバリンも末梢性神経障害性疼痛の適応を有します。

    図3:神経障害性疼痛 薬物療法アルゴリズム
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    図3 神経障害性疼痛 薬物療法アルゴリズム

    プレガバリンやアミトリプチリン塩酸塩、ミロガバリンは患者の痛みの訴えなどを考慮して使い分けます。私見になりますが、「火」をイメージさせる痛みの訴えに対してはアミトリプチリン塩酸塩が、「電気」をイメージさせる痛みの訴えに対してはプレガバリンやミロガバリンが有効である可能性が高いと感じています4)

    これらの薬剤で十分な効果が得られなかった患者に対しては、オピオイド鎮痛薬であるトラマドール塩酸塩(徐放錠・口腔内崩壊錠)またはトラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合剤(配合錠)を投与します。どのトラマドール塩酸塩製剤を用いるかは、配合されている成分の含量や、急性期のアセトアミノフェンの効果、徐放製剤による薬効の安定性などを考慮し決定します。

    安全性の観点からは、プレガバリンの投与時は、傾眠、浮動性めまい、転倒、浮腫、食欲増加、体重増加、視力障害などに注意する必要があります。ミロガバリンでも同様の注意が必要です(表46)

    表4:プレガバリンおよびミロガバリンの使用法と注意点
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    表4 プレガバリンおよびミロガバリンの使用法と注意点

    アミトリプチリン塩酸塩の投与時は、眩暈、眠気、嘔気、口渇、動悸、尿閉、紅潮などの抗コリン作用に留意します(表54)

    表5:アミトリプチリン塩酸塩の使用法と注意点
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    表5 アミトリプチリン塩酸塩の使用法と注意点

    トラマドール塩酸塩*2やトラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合剤を使用する場合は、嘔気・嘔吐、食欲低下、便秘、ふらつき、眠気、意識消失、口渇、肝機能障害などへの副作用対策を考慮します(表64)

    • *2:本邦一部承認外
    表6:トラマドール塩酸塩の使用法と注意点
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    表6 トラマドール塩酸塩の使用法と注意点

    まとめ

    これまで述べてきたように、帯状疱疹治療では、早期からの抗ヘルペスウイルス薬投与だけでなく、痛みの病態の変化を見極めた適切な薬物療法が求められます。痛みに使用する薬剤の種類は決して多くないため、患者の訴えや状況を勘案し、適切に使い分けることが大切です(図43)

    図4:まとめ
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    図4 まとめ

    前述した薬物療法を実施しても、抑うつ、過度の警戒心(不安)、食欲低下、不眠、自宅に引きこもる、入浴を控えるなどのQOLあるいはADL(Activities of Daily Living)の低下が見られる場合には、早期に麻酔医へ紹介することを考慮するとよいでしょう。

    1. Johnson RW,et al.:BMC Med 2010;8:37.
    2. Tyring S,et al.:Ann Intern Med 1995;123(2):89-96.
    3. 比嘉和夫:治療 2008;90(7):2147-2149.
    4. 山口重樹:皮膚病診療 2017;39(4):348-355.
    5. 一般社団法人日本ペインクリニック学会 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂版作成ワーキンググループ・編:神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂第2版, 49, 真興交易(株)医書出版部, 2016.
    6. 山口重樹ほか:臨床化学 2019:48(3):225-231.

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