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maruho square 薬剤師がグングン楽しくなる医療コミュニケーション講座:ヒューマンエラーを防ぐコミュニケーション(1)―ヒューマンエラーの背後にはコミュニケーションの問題あり!


  • 帝京平成大学薬学部 教授 博士(薬学) 井手口 直子 先生

はじめに

「To Err is Human」(人は間違えるもの)という言葉がありますが、人が関わる事柄は間違える可能性がゼロにはならず、医療も例外ではありません。ただ、医療ミスの結果には、飛行機の操縦ミスや発電所の操作ミスとの違いがあります。それは「ミスをされた側(患者さん)だけが命の危険にさらされる」ということです。患者さんの命を預かる医療従事者としては「人は間違えるもの」では済まされないのです。今年は2回に分けて医療安全について考えていきましょう。

調剤事故に関する薬剤師の法的責任は?

薬剤師の調剤過誤には、次の4つのパターンがあります。

  1. 処方箋外の医薬品を無断で交付した場合
    →薬剤師の独断で行う行為です
  2. 処方箋には問題がなく調剤過誤した場合
    →ほぼ薬剤師の問題になります
  3. 医師の処方ミスであるが、処方箋の形式的には成り立っている
    →薬学的な処方監査ができなかったケースになります
  4. 医師の処方ミス、形式的にも齟齬あり
    →明らかに問題のある処方箋

1・2はほぼ薬剤師の責任と考えられますが、3・4も医師と薬剤師の共同不法行為として法的責任を問われる可能性があります。法的責任とは次の3点です。1)被害者の救済を誰の責任について問うかという民事上の責任、2)業務上過失致死傷罪などの刑事上の責任、そして3)行政法上の責任(行政処分)です。

コミュニケーションエラー

過誤の背後にあるコミュニケーションエラー

コミュニケーションは「伝達」ですが、人間は伝達された情報だけで判断するのではなく、様々な文脈、状況、情報、知識を総合的に判断して、本来伝達されようとしている事柄が何であるかを理解します。つまり、送り手が送った情報は、受け手側で様々に判断される可能性があるということです。一例を示します(図1)。
情報の受け手側にヒューリスティックな判断やトップダウン処理があると、一部の情報が捨てられ、エラーにつながる危険があります。

図1:情報は受け手側で様々に解釈・判断される可能性がある
記事/インライン画像
コミュニケーションエラー

コミュニケーションエラーをもたらす誤伝達および省略

コミュニケーションエラーは、誤伝達と省略が原因であることが分かっています。それぞれの要素を示します。

〈誤伝達〉

  • 伝達情報が間違っている
  • 伝達情報が曖昧である
  • 伝達情報を誤解釈している

〈省略〉

  • 伝達の省略→“分かるはず”という思い込みによる
  • 確認の省略→“よく分からない”と思ったことをそのままにしてしまう
  • 伝達しづらい→立場、人間関係も影響する

医療現場はコミュニケーションエラーが起きやすい環境

医療現場の特徴として、次のような点が挙げられます。医療従事者には素早い対応が求められ、誤伝達や省略が起きやすいのです。

  • 専門性が高く、分化しており、職種間で言語が一致していないことがある
  • 患者さんは多様で、様々な症例があり、個別性が高いため、それぞれへの対応が必要とされる
  • ほとんどの医療現場は多忙であり、また急を要する状況である
  • 病状の変化、患者さんの入れ替わり、治療方法や医薬品の進化など、変化が速い

コミュニケーションを躊躇させる心理的要因

その他、以下のような心理的要因がコミュニケーションを躊躇させ、本来安全であるべき医療のリスクを高めることになります。

集団思考:凝集性の高い集団で、集団内の意見の一致を重視するあまり、とり得る可能性のあるすべての行動を客観的に評価しようとしなくなる思考様式
例)患者さんが求めてきたサービスを「うちではやってないから」と先輩に言われ、そのまま無思考に「できません」と断ってしまった。しかしよく考えれば、別の方法でも患者さんのニーズは満たせたかもしれない状況であった。
同調:自分の意見、判断、行動などが集団の他の成員と異なっているとき、集団のものに合致するように自分の意見、判断、行動を変化させること
例)患者さんの話から多剤併用で服用状況も気になるため自宅を訪問したいと考えたが、他の薬剤師2名が「行かないほうがよい。仕事が増えるし、責任も取れないから」と主張したので、「まぁそうかもしれない」と思い直した。
傍観者効果:援助者が必要とされる事態に、自分以外の他者がいることを認知した結果、介入が抑制されること
例)病室のそばを通りかかったとき、患者さんが少し苦しそうにみえたが、自分は急いでいたし、近くにナースが2名もいたのでみてくれるだろうと思って通り過ぎた。しかし後で確認すると、ナースは患者さんの様子に気づかず、患者さんはしばらく放置されていたことが分かった。

医療安全における薬剤師の役割は大きい

医療安全を保つうえでは、薬を正しく調剤するところまでではなく、患者さんに薬をお渡しした後のケアも重要です。折しも「医薬品医療機器等法(薬機法)」の改正では、薬剤師に服薬期間中の患者フォローを義務付けることが盛り込まれる見込みです。薬剤師には以下に示すように「自分の患者さん」という意識で常にフォローアップしていくことが求められます。そのためには、患者さんの服薬や治療に関する不安、迷い、不満を聴き出すことから始め、患者さん個別の背景や状況の把握を行うことが重要です。これが「かかりつけ薬剤師」の役目です。

患者さんフォローアップの要点
  • アドヒアランスの確保:患者さんの薬の理解度や服用状況を把握する
  • 副作用の早期発見:服用期間中にも連絡が容易にとれるようにし、初期症状を早期に発見する
  • その他の危険要素への早期対処:高齢患者さんのフレイルや認知症の進行を把握して、早めの対応を心がけるなど

厚生労働省は、かかりつけ薬剤師・薬局の取り組み状況を把握・評価するKPI(Key Performance Indicator)を設定していますが、薬局機能情報提供制度(原則年1回の各薬局からの報告を基に、都道府県がインターネットなどを通じてそれぞれの基本情報やサービス、機能を住民に公開している)に新たに加える項目を発表しています。その中には、地域医療連携体制として、プレアボイド事例の把握・収集に関する取り組みの有無(「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」への参加と報告実績)も含まれています。地域医療連携加算の影響により、本事業への参加薬局数と報告件数は急増しています(図2)。
報告の中で疑義照会も増えており、2018年1~6月では24,446薬局・20,584件のうち、調剤ヒヤリ・ハット10,653件、疑義照会9,831件の報告がありました。疑義照会については、薬剤師が処方箋のみで判断できるものが28.4%、薬局管理情報等から判断するものが71.6%という結果でした。これは薬局薬剤師が、処方箋のみではなく、薬歴や患者さんとのコミュニケーションで危険回避ができたことを示す貴重なデータです。
医療には多職種が関わるゆえに、コミュニケーションエラーの危険は常にあります。だからこそ、薬剤師が適切なコミュニケーションをとり、専門性を活かすことこそが、患者さんを危険から守る最大の武器になるのではないでしょうか。

図2:「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」への参加薬局数および報告件数の推移
記事/インライン画像
薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業

公益財団法人日本医療機能評価機構「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」報告書より著者作成

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