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maruho square リスクマネジメント:「スキン-テア」発生原因となりうる薬剤と薬剤師が予防に関与する必要性~薬剤師の皆さん!「スキン-テア」を知って下さい~


  • 独立行政法人 地域医療機能推進機構(JCHO)徳山中央病院 薬剤部/褥瘡対策委員会 日本褥瘡学会認定師(薬剤師) 益成 宏 先生

はじめに

2002年に褥瘡対策未実施減算が施行されてから、当院は褥瘡対策委員会を組織し、その実動部隊である院内褥瘡対策チームが褥瘡保有患者さんの褥瘡回診を月1回行っています。チームの看護師が皮膚・排泄ケア認定看護師を取得しチーム専従となった2017年12月から「褥瘡ハイリスク患者ケア加算」の取得を開始しました。
現在、月1回の褥瘡回診は継続しつつ、褥瘡ハイリスク9項目(表1)に該当する患者さんを対象とした回診を、医師・薬剤師・看護師・管理栄養士・理学療法士・歯科衛生士によるチームで週2回行っています。褥瘡ハイリスク9項目には「極度の皮膚の脆弱」が含まれていますが、回診を重ねていくうちに、主に高齢者に発生する皮膚の急性創傷であるスキン‐テア(以下、スキンテア)保有患者さんの実態が明らかになりました。スキンテアは、発生した際の応急処置に加え、予防に関してもチームで関与すべき疾患です。例えば歯科衛生士は口腔内環境や嚥下の状態を、管理栄養士は食事摂取状況や栄養状態を把握しますし、理学療法士はベッド柵、転倒予防のマットの設置、体位変換時の注意やポジショニングを担当します。
その中で薬剤師は、スキンテアを生じた患者さんが共通して服薬している薬剤があることに注目しました。また、既存調査では抗悪性腫瘍薬(主に分子標的薬)、ステロイド薬(内服・外用)、抗凝固薬などの使用がスキンテアの発生リスクとなることが明らかとなっているため、これを踏まえてスキンテアの発生原因となりうる薬剤(内服薬)について調査し、薬剤師はスキンテアの予防にどのように介入できるのかを考察しました。

表1:褥瘡ハイリスク患者ケア加算・褥瘡ハイリスク9項目
ショック状態のもの
重度の末梢循環不全のもの
麻薬等の鎮痛・鎮静剤の持続的な使用が必要であるもの
6時間以上の全身麻酔下による手術を受けたもの
特殊体位による手術を受けたもの
強度の下痢が続く状態であるもの
極度の皮膚の脆弱(低出生体重児、GVHD、黄疸等)であるもの
皮膚に密着させる医療関連機器の長期かつ持続的な使用が必要であるもの
褥瘡に関する危険因子(病的骨突出、皮膚湿潤、浮腫等)があって既に褥瘡を有するもの

褥瘡ハイリスク患者ケア加算の対象となるのは、ベッド上安静であって上記に掲げるものとされる。

一般社団法人日本褥瘡学会「平成30年度(2018年度)診療報酬・介護報酬改定 褥瘡関連項目に関する指針」より作成

調査方法

2017年12月1日~2018年5月17日の期間に「褥瘡ハイリスク回診」の対象となった144名のうち「極度の皮膚の脆弱」に該当する99名および、そのうちスキンテアを発生し処置を実施した26名の性別・年齢・日常生活自立度・既往症・ハイリスクの状態像(日本創傷・オストミー・失禁管理学会が「個体要因のリスクアセスメント」として提唱している項目)・使用薬剤を調査しました。

調査結果

「極度の皮膚の脆弱」に該当した99名(68.8%)は平均年齢80.5歳、日常生活自立度C2該当者76名(76.8%)、スキンテアのリスクアセスメント項目該当調査で、①低栄養状態[アルブミン(Alb)3.0g/dL未満]が69名(69.7%)、②抗凝固薬使用25名(25.3%)、③抗悪性腫瘍薬・分子標的薬治療歴18名(18.2%)、④長期ステロイド薬使用10名(10.1%)と、スキンテアの症状発生には、薬剤が少なからず関与していました。

図1:STAR分類システム

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カテゴリー1a
カテゴリー1a

創縁を(過度に伸展させることなく)正常な解剖学的位置に戻すことができ、皮膚または皮弁の色が蒼白でない、薄黒くない、または黒ずんでいないスキンテア。

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カテゴリー1b
カテゴリー1b

創縁を(過度に伸展させることなく)正常な解剖学的位置に戻すことができ、皮膚または皮弁の色が蒼白、薄黒い、または黒ずんでいるスキンテア。

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カテゴリー2a
カテゴリー2a

創縁を正常な解剖学的位置に戻すことができず、皮膚または皮弁の色が蒼白でない、薄黒くない、または黒ずんでいないスキンテア。

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カテゴリー2b
カテゴリー2b

創縁を正常な解剖学的位置に戻すことができず、皮膚または皮弁の色が蒼白、薄黒い、または黒ずんでいるスキンテア。

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カテゴリー3
カテゴリー3

皮弁が完全に欠損しているスキンテア。

©2013 一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会
日本創傷・オストミー・失禁管理学会の許可を得て掲載

また、26名に発生したスキンテアを「STAR分類システム」(図1)により評価したところ、54%が右手・右上腕に「カテゴリー1b」で発生し、また使用されていた薬剤は利尿薬が最多でした(図2)。スキンテアリスクの高い患者さんの多くに浮腫があり、利尿薬は必須ですが、一方で全身の脱水症状を誘発するおそれもあるのではないかと考察しました。薬剤師が観察する部位は足の前脛部や手背です。ペラペラの表面、ムクムクのさわり心地、冷たい皮膚などの特徴がありました(図3)。

図2:スキンテアのリスク項目の評価(実際に処置をした患者さんの内服薬)
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図2:スキンテアのリスク項目の評価(実際に処置をした患者さんの内服薬)
図3:スキンテアのリスクが高い皮膚
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図3:スキンテアのリスクが高い皮膚

薬剤師が関与すべき点

スキンテアの第一のハイリスク要因として「高齢者」「低栄養状態」があるため、Alb値から栄養状態を把握し、場合によっては栄養サポートチーム(NST)介入を検討します。また、利尿薬、抗凝固薬、ステロイド薬、抗悪性腫瘍薬、睡眠導入薬などの使用状況を確認します。さらに、実際に皮膚に触れてフィジカルアセスメントを行い、症状が認められる場合は、主治医をはじめ他の医療職と協議しスキンテアのハイリスクであることを共通認識したうえで、皮膚保護剤、保湿剤の使用を検討すべきです。薬剤の選択は薬剤師の得意分野ですが、私の経験では脆弱な皮膚には乳化されているローションタイプのものが優しく伸ばしやすく、しっかりと保湿もできるようでした。また、学会会場では泡タイプの保湿剤が紹介されており、塗布時の皮膚との摩擦を低減できると感じました。
使用薬剤との関連では、頻尿のある患者さんが睡眠導入薬を内服し、夜間トイレに起きた際に転倒し、スキンテアを受傷された例も経験しました。患者さんの転倒リスク、ベッド柵などへの接触リスクを評価し、必要に応じて院内の皮膚・排泄ケア認定看護師、褥瘡対策チームに介入を依頼すべきであると思います。

さいごに

例えば、高齢者入所施設では「虐待」として訴えられかねない皮下出血痕や、孫が遊びに来ておじいちゃんの腕にぶら下がったときに皮膚が剥げてしまい、孫はそれ以来寄り付かなくなったなど、スキンテアはさまざまな場面に関わる身近な疾患となりつつあります。スキンテアの発見と予防の一端を担うことは、全ての薬剤師の使命であると感じています。

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