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maruho square チーム医療と薬剤師:薬薬連携を活用した皮膚障害マネジメントの成果と今後の展望


爪囲炎、ざ瘡様皮疹、手足症候群などの皮膚障害が好発する経口抗がん剤は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬やフッ化ピリミジン系をはじめ、数多く存在する。皮膚障害は痛みや痒みなどの症状、外観の変化などによりQOLを損なううえに日常生活に支障を来す場合がある。また、抗がん剤の減量・中止を余儀なくされることもあり、特にdose intensityの低下により治療効果を損なうとの報告がある薬剤を用いた治療では、皮膚ケアや皮膚障害のマネジメントが重要な役割を果たす。今回は、薬薬連携を活用した皮膚障害マネジメントに取り組んでおられる浦川先生に、取り組みの実際を中心にお話しいただいた。

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大阪大学歯学部附属病院 薬剤部 部長、がん専門薬剤師 浦川 龍太 先生
  • 大阪大学歯学部附属病院 薬剤部 部長/がん専門薬剤師 浦川 龍太 先生

皮膚障害の予防・軽減めざし、薬薬連携により経口抗がん剤服用患者さんへの介入を開始

以前のご勤務先である公立学校共済組合近畿中央病院(兵庫県伊丹市)時代に、薬薬連携を活用した皮膚障害マネジメントを開始されたそうですが、その背景をお聞かせください。
【浦川】がん専門薬剤師として多くのがん患者さんと関わる中で、私は皮膚障害によりQOLや治療効果に悪影響が及んでいる方にしばしば遭遇し、がん薬物療法におけるスキンケア指導、皮膚障害の早期発見・対策の重要性を感じました。薬剤師も医療従事者としてしっかりと関わっていく必要があるのですが、病院薬剤師は外来通院で経口抗がん剤治療中の患者さんに関与する機会が限られているなど、難しい面があります。そこで、調剤時に必ず患者さんと接する保険薬局の薬剤師(以下、薬局薬剤師)にご協力いただこうと考えました。経口抗がん剤治療中の患者さんの皮膚ケアの指導、皮膚障害のアセスメントおよび処方提案に関し、保険薬局に可能な範囲でお手伝いいただくことで、QOLや治療効果の向上をめざす仕組みを作りたいと思いました。
取り組み開始までの経緯を教えてください。
【浦川】当時在籍していた近畿中央病院での倫理審査を経て、病院と地元・伊丹市薬剤師会が定期的に実施している合同勉強会を行いました。ここでは皮膚科医、皮膚・排泄ケア認定看護師、がん専門薬剤師が、皮膚障害とケアに関する講義および本取り組みの概要を説明しました。また、保険薬局への「依頼書」には病院薬剤部のホームページアドレスも記載し、本取り組みの概要や必要書類を公開しました。こうすれば、合同勉強会に参加されていなくても、あるいは患者さんが病院近隣ではない薬局を訪れても、対応する薬局薬剤師は皮膚障害マネジメントに取り組むことができるからです。

患者さんの同意を得て保険薬局に取り組みを依頼保険薬局での介入内容は高率でフィードバック

取り組みの概要について教えてください。
【浦川】2017年5月1日~10月31日の期間に、近畿中央病院にて皮膚障害を起こしやすい経口抗がん剤()を使用している、または開始予定である外来患者さんを抽出しました。本取り組みの説明と同意書の取得は、外来スタッフの協力を得て私が外来に出向いて行いました。参加に同意された患者さんには、処方箋とともに先述の「依頼書」を保険薬局に持参していただくようお願いしました。
この「依頼書」を受け取った保険薬局側の業務は次のとおりです。患者さんの皮膚の状態確認または病変のGrade判定を行い「皮膚障害対策シート」(以下、対策シート)(図1)に記入し病院に返信すること、皮膚ケアの確認と患者さんへの教育・指導を行い、その内容を「皮膚障害マネージメント連絡票」(図2)に記入・返信すること、そして皮膚障害に対する処方薬の評価・説明・指導を行うことです。「対策シート」には、皮膚障害の種類・部位・Gradeごとに処方が示されています。皮膚障害が存在するのに適切な薬剤が処方されていない場合などは、疑義照会や処方提案の対象になります。
表:対象とした薬剤
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表. 対象とした薬剤
図1:皮膚障害対策シート(一部抜粋)
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図1. 皮膚障害対策シート(一部抜粋)
図2:皮膚障害マネージメント連絡票(一部抜粋)
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図2. 皮膚障害マネージメント連絡票(一部抜粋)
結果の概要について教えてください。
【浦川】約60名の患者さんが参加され、保険薬局からはそのうち約9割に関する報告(返信)があり、皮膚障害の予防・治療に対する薬局薬剤師の意識・関心は高いと感じました。
皮膚の状態確認や病変のGrade判定は、薬局薬剤師には慣れない業務かもしれませんが、その点はいかがでしたか?
【浦川】今回は、経口抗がん剤で高頻度に見られる4項目、すなわちざ瘡様皮疹、乾皮症(皮膚乾燥)、爪囲炎、手足症候群に絞った取り組みとしたこと、皮膚の状態確認と「対策シート」への記入は、別途配布した皮膚障害アセスメント用資料(問診項目、観察部位・項目、各Gradeの定義、皮膚障害の画像を紹介)を参考にしながら進められることで、概ね問題はなかったと考えます。また、私たち病院側でも薬局からの質問などに電話、FAX、個別のヒアリングでこまやかに対応しました(図3)。
図3:保険薬局からの質問事例
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図3. 保険薬局からの質問事例

疑義照会や処方提案が不十分な現状を変えたい

経口抗がん剤による皮膚障害の予防・早期発見・治療に、やはり薬薬連携は有用でしょうか?
【浦川】被検者数が多くなかったとはいえ、皮膚障害が悪化しなかった傾向より、一定の成果が得られたと考えています。また、薬局薬剤師からの返信には、質問以外にも患者さんの現況が余白に詳しく書かれていることがありました。これに対して病院側からお答えすることにより、患者さんに対してさらに良いケアを提供できていると感じたことが、私にとって最も嬉しかった点です。
一方で「患者さんがこの状態であったのなら、保険薬局からこんな提案がほしかった」というものも散見されました。次回通院日までに時間が空く場合は、その間の症状の変化をあらかじめ想定した疑義照会、処方提案なども重要です。患者さんをお待たせしてしまうこと、薬剤師の知識が必ずしも十分ではないことも要因として考えられますが、私たちも勉強会や発表会でのデータ紹介などを通して、薬局薬剤師がさらに積極的に介入できる環境を作りたいと考えています。
今後の展望をお聞かせください。
【浦川】今回の取り組みは単一病院と近隣の保険薬局で実施したため、被検者数が少なく、選択バイアスの可能性もあります。今後はこうした問題を解決し、薬薬連携のアウトカムをしっかり出していくことができればと思っています。
経口抗がん剤による皮膚障害のマネジメントは、薬薬連携を活用するきっかけの一つです。皮膚障害以外にも経口抗がん剤の有害事象はありますので、そうした有害事象の早期発見、症状マネジメントなどにも薬薬連携を活用したいと考えます。薬局薬剤師ががん患者さんのケアや副作用対策に深く関わり、QOLや治療効果の向上に貢献できるように、患者さんの情報をどのように活用するか、こんな時の対策はどうするか、という点も含めて、病院薬剤師としてしっかりと情報を出していきたいと思います。

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